TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)
 昨年、大ヒットした『シックス・センス』('99)と『マトリックス』('99)を制作したのは、どちらも聞きなれないスパイグラスとビレッジロードショーという小規模の制作会社だ。この二つに加えて、ベル・エア、ニュー・リージェンシー、ミューチュアル、マンダレー、ビーコンといった小さな制作会社が実は今、ハリウッドの制作様式を根底から覆そうとしている。

 これらの制作会社は、せいぜい20~30人くらいの少数精鋭で、企画、資金調達から、制作、配給、販売まですべてをこなす。スタジオが制作資金を負担しないという点では、「インディペンデント」の制作会社なのだが、一つ大きな違いがある。それは、メジャー・スタジオとの結びつきの強さにある。

 これらの会社は、元スタジオ幹部らが経営している場合が多く、スタジオ内にオフ ィスをかまえる。メジャー・スタジオとの人脈と、映画作りのノウハウを知っていることが特徴だ。

 通常のインディが、四苦八苦しながら独自に資金を調達し、映画を完成させる。評判が良いと分ると、やっとスタジオの幹部が重い腰を上げる。映画祭で試写してから、「配給権を買いましょう」と言ってくる。ところが、評判が良くないと、スタジオは目もくれない。映画は配給されなければ、資金回収できない在庫と化す。リスクはすべて、自分たちでかぶらなくてはならないわけだ。

 それとは対照的に、「体制内インディ」制作会社の場合は、企画の段階からスタジオが関与している。基本的には、独自に映画制作資金を調達しているが、スタジオが配給権の青田買いをしてくれるから、資金調達も有利。融資先も取りぱぐれのないスタジオがバックにあればこそ、融資して安心というもの。

 スタジオにとってみれば、企画から脚本までのディベロップメント(この段階で、多くの企画はボツになる)にかかるコストを負担しなくて良いし、制作費負担のリスクも少なくて済む。しかも、通常のインディとは違い、交渉パートナーは元同僚たちだ。話も早い。 これら「体制内インディ」は、官僚化したスタジオと違い、会社の規模が小さいから小回りがきくし、決定が早い。だから、スタジオでは作れないような、比較的ユニークでニッチな映画が企画しやすいといわれる。

 年々、メジャー・スタジオがリスクに臆病となり、確実に儲かる方程式の企画しか制作しないトレンドが強まる中で、これら「体制内インディ」の台頭こそが、ハリウッドを活性化させると見る人々 は多い。

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