最近のハリウッド映画は実話ものが目立つ。事実は小説よりも奇なりか、実話は感動を生むのからなのか、実話を元にした映画は実に多い。ここ一、二年だけで、『インサイダー』、『マン・オン・ザ・ムーン』、『ザ・ハリケーン』、『エリン・ブロコビッチ』、『ボーイズ・ドント・クライ』とヒット作は目白押しだ。

 『インサイダー』は、元タバコ会社の幹部が、タバコ会社の暗部を暴くという実話を映画化したサスペンス・ドラマ。『L.A.コンフィデンシャル』でブレイクし、『グラディエーター』でトップスターの仲間入りしたラッセル・クロウが内部告発者を演じる。タバコ会社は、タバコが人体に有害だという事実を知りながら、これをひた隠し、巨額な利益をあげてきた。有害物質のために喫煙者は様々な病気にかかりやすい。おかげで保険料請求が激増し、各州の財政を圧迫した。原因の張本人でありながら利益を上げ続けているタバコ会社が費用を負担すべきと考えたのはまさにアメリカ的。州政府は、良心の呵責を覚える内部告発者を抱き込むことで、タバコ会社の責任を法廷で追求した。内部告発者の証言のおかげで、ミシシッピ州で始まり、ついには46州が原告となるまでに広がったタバコ訴訟は、タバコ会社が2,460億ドルを支払うことで和解した。その一連の流れを忠実に追ったこのドラマには、タバコ会社、告発者、そして特ダネを追う三大ネットワーク局の一つCBSの名物ニュース番組「60ミニッツ」の番組プロデューサーらが実名で登場する。

 『インサイダー』のなかでは、ショッキングな場面が少なくない。タバコ会社は、裁判で不利な証言させないよう告発者にいろいろな形で圧力をかける。恐怖やストレスから告発者の家族は離散に追い込まれる。さらには、「60ミニッツ」が内部告発者のインタビューに成功するや、その財力と政治力を駆使し、あらゆる手段で放送を止めようと企てる。タバコ会社の圧力に屈したCBSは、暴露インタビューをカットするよう番組プロデューサーに圧力をかける。名誉も、仕事も、家族も失った内部告発者とその闘いをサポートし続けた番組プロデューサーの運命はいかに。まだ映画を見ていない読者のために、サスペンスの結末は言わないのがルールかも。

 実名で登場するタバコ会社は、アメリカの配給を担当したディズニーに対して、『内容に捏造がある』とクレームしたそうだ。『インサイダー』に“捏造”があったかどうかは別にしても、あくまでも映画はフィクションであり、ストーリーの必要上、いくらかの脚色があることは知っておく必要がある。ただ、残念ながらその脚色のおかげで、実話映画には、名誉毀損、プライバシー権、肖像権といった訴訟がついて回る。その映画で描かれた実在の人物が、描き方に不満を憶えていれば、訴訟という手段に打って出ることになるのだ。

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