TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 ハリウッドで最も注目される映画製作会社ビーコン・コミュニケーションズ

 ビーコン・コミュニケーションズは、1990年に生まれた独立系制作会社だ。これを作ったのは、脚本家・監督・プロデューサーであるアーミアン・バーンスタインさん、脚本家・ジャーナリスト出身のマーク・アブラハムさん、そして不動産家のトム・ローゼンバーグさんの3人だった。バーンスタインさんとアブラハムさんは制作畑出身。ローゼンバーグさんが資金援助した。

 当初ビーコンは、二〇世紀フォックスとの間で、決められた本数の映画を提供する契約(アウトプット契約)を結んだ。初めて作った映画は、『ザ・コミットメンツ』('91)。制作費1,800万ドルで、全世界からの興行収入は5,300万ドルを稼いだ。二〇世紀フォックス在籍中にいくつかの低予算映画を作ったが、1993年にはソニー・ピクチャーズへと移籍。そしてソニーのお膝元で『エアフォース・ワン』('97)の大ヒットを生み出す。

 ビーコンは『エアフォース・ワン』の大ヒットのおかげでトップ・プロデューサーとして認められるようになり、海外からの資金調達が容易になった。デンゼル・ワシントン主演の『ザ・ハリケーン』、アーノルド・シュワルツネッガー主演の『エンド・オブ・デイズ』(いずれも'99)そしてケビン・コスナー主演の『13デイズ』(00)と立て続けに、有名スターを起用した大作を制作するようになる。

 現在はユニバーサルがビーコンのパートナーだ。ビーコンは、脚本と俳優、そして監督が決まった段階で、ユニバーサルに企画を提示する。その企画が気に入れば、ユニバーサルは資金の一部を負担し、北米での配給権を手に入れる。ユニバーサルは、ビーコンの人件費の一部と、更に配給に必要なプリント代、広告宣伝費をも負担する。ビーコンは、北米以外の地域の配給権を前売りすることにより、残りの制作費を工面する。そしてその配給契約を担保に銀行から資金を借り入れるというパターンは、スパイグラス、ミューチュアル、フランチャイズといった他の体制内独立系制作会社と同じ。自己資金調達なので、権利も自分のもの。映画はライブラリー(自社保有の作品群)になっていく。

 スタジオにとっては、すべてお膳立てされた企画に資金提供するかどうかを決めるだけ。提供した資金は配給収入から回収することができるし、社内で映画を企画し、制作するよりもコストもリスクもずっと少なくて済む。海外でのパートナーは、日本の大手配給会社である東宝東和とオーストラリアの興行会社ビレッジ・ロードショーのみ。今までは映画ごとに日本の配給パートナーを決めていたが、2001年からは、東宝東和がビーコン制作の映画を日本で独占的に配給する。その第一弾は、『チアーズ!』(00)。北米でも大ヒットとなったチアリーダーたちが主人公のコメディ映画。そして、第二弾は、ロバート・レッドフォードとブラッド・ピット主演のアクション・スリラー映画『THE SPY GAME』(01/原題)と続く。レッドフォードとピットのコンビは、『リバー・ランズ・スルー・イット』('92)以来。北米ではユニバーサルが配給する。『THE SPY GAME』は、制作費1億2,000万ドルといわれる超大作。その他の地域の配給権は、どの配給会社に許諾するか決めるとパートナー選びに慎重だ。

 ビーコンの創設者であるバーンスタインさんはこういう。「ビーコンのゴールは、人々の心に残る映画を作ること。ビーコンでは脚本起こしに多大な時間と費用をかける。制作期間の半分もしくはそれ以上を費やすこともある。納得いく脚本ができるまで妥協しない。映画の基本は脚本だから」。バーンスタインさんも、彼のパートナーであるアブラハムさんも脚本家出身。脚本の大切さを誰よりも理解する。どこを切っても金太郎飴的なハリウッド映画が多く作られる中で、職人気質を感じさせる希少な制作者集団だ。
『ヴァージン・スーサイズ』のキルステン・ダンスト率いるチアチームの奮闘をハイテンションに描く『チアーズ!』。今夏日本公開 ビーコン・コミュニケーションズ創設者で会長のアーミアン・バーンスタインさんと著者
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