TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 ハリウッドの組合特集:「俳優組合」とは

 アメリカには俳優組合と呼ばれる職能組合がある。Screen Actors Guild。略して“SAG”と呼ばれる。俳優たちを代理して団体交渉し、その権利を守ってくれる非営利団体だ。映画会社や制作会社との間で、俳優たちの最低賃金や労働条件、それに再使用料を交渉してくれる。交渉がまとまらないときは、スト権を行使する。昨年、コマーシャル制作会社との間で契約が決裂したとき、6ヶ月にわたりストを決行したことは記憶に新しい。
 俳優組合ができたのは、1930年代。当時の俳優業は最低賃金保証もなく労働条件は過酷だったといわれる。出演料は1週間に6日間働いて65ドル。経済恐慌が起こったとき、スタジオ側は一方的に出演料の50%をカットすると発表した。自分たちの生活を守るのは自分たちしかいない。個人では無力だ。団体交渉する組織を作る必要がある。18人の俳優たちが1933年に俳優組合を結成した。現在では、映画やテレビに出演する俳優たち、声優たち、スタントマン、脇役、エキストラや舞台俳優など、総計98,000人が所属しているというから、その存在の重要さが分かろう。
俳優組合の本部
俳優組合に所属する俳優の80%は白人と圧倒的に多い。続いてアフリカ系が10%、ラテン系5%、アジア系3%、原住民0.3%。本部は、ロサンゼルスの中心に近いミッド・ウィルシャー通りにある。
 ハリウッドの俳優には、映画出演一本で2,000万ドルを稼ぐスーパー・スターがいる。ジュリア・ロバーツやトム・クルーズらだ。これは全体の1%にすぎない。俳優人口の70%は、年収7,500ドル以下という最低限に近い収入だ。俳優組合は、スーパー・スターではない大多数の俳優たちの生活を守るのがその使命。映画スタジオや制作会社との間で、俳優たちのために、出演料の最低賃金や労働条件を集団交渉する。

 近年特に重要なのが、俳優に支払われる再使用料だ。映画を劇場で公開した後は、ビデオやテレビで稼ぎ、そしてネット上、コマーシャルなどで二次使用される。二次使用されたら、再使用料が発生する。昨年俳優組合に所属する俳優たちが稼いだ収入は15億9,000万ドル。そのうち、再使用料は6億1,700万ドルというから、再使用料は、俳優たちにとって貴重な収入源だ。
 俳優組合が規制しているのは、主として次の3つのコンテンツ制作についてだ。
1.劇場用映画
2.テレビ用映画と番組
3.テレビ用コマーシャル
 では、ネット上でコンテンツを使用する場合、俳優組合の規則に従わなければならないのだろうか?俳優組合のスポークスマン、グレッグ・クリーズマンさんによると、「インターネットでコンテンツを再使用する場合、ネットというメディアでの再使用に当たるので、再使用料が発生する。ネットのみで配信するためにコンテンツを作る場合も、昨年から俳優組合の管轄になった」という。新しいメディアが生まれ、収入源は更に広がる。俳優組合は、俳優たちもその恩恵を受けられるよう常に働きかける。
俳優組合(SAG)
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