TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 メディア企業の合従連衡

 「ブロードバンドの技術がビデオ・オン・デマンドを可能にする」そんな声が聞かれるようになった。ビデオ店に足を運ばずに、好きな時に好きな映画をオンラインで注文することができるようになる時代も近い。

 そんなブロードバンド時代の到来を想定してか、先手を打つアメリカの大手メディア企業は、インターネット関連企業との提携を強めつつある。映画スタジオであるワーナー・ブラザースを傘下に置くタイム・ワーナーが、インターネット・サービス・プロバイダーの大手であるアメリカ・オンライン(AOL)と合併したのは、近い将来拡大するであろうブロードバンド・ビジネスへの布石と言えそうだ。
 AOLとタイム・ワーナー両社の総資産は合併を発表した時点で3,500億ドルといわれる。AOLタイム・ワーナーは、映画スタジオのワーナー・ブラザース、ターナー・エンターテインメント、ニューライン・シネマなどの制作・配給会社を傘下に置き、新作はもちろんのこと、6,000の映画タイトル、28,500のテレビ番組、7,100のアニメ番組のライブラリーを、TNT、TBS、HBO、シネマックス、WBネットワーク、カーチューン・ネットワークなどのテレビ・メディアで流し、コンテンツを再利用している。

 AOLタイム・ワーナーは映像ビジネスのみならず、音楽事業、ケーブル事業、「タイム」、「フォーチュン」、「ライフ」、「スポーツ・イラストレーテッド」といった出版業務、シックス・フラッグスというテーマパークを経営し、「バッグス・バーニー」や「シルベスター」といった多くのキャラクターを商品化し、アトランタ・ブレーブスといった野球チームなどを保有する世界最大のメディア企業となる。

 合併が盛んなのはAOLタイム・ワーナーだけではない。20世紀フォックスを吸収したのはニュース・コーポレイションというオーストラリア出身の新聞王であるルパート・マードックが大株主のメディア企業だ。映画スタジオのディズニーはABCネットワークを吸収合併した。
 「コンテンツは王様だ」と言い続けてきたサムナー・レッドストーンは、彼が主要株主となっているバイアコムと、映画スタジオのパラマウントを合併させた。更に、2000年には三大ネットワークのひとつであるCBSを合併し、念願の多角化を叶えた。バイアコムのCBS買収価格は345億ドルで、ストック・スワップ(株式交換)の形態で合併は行なわれた。現在、バイアコムは、映画スタジオ(パラマウント)、ネットワーク(CBS、UPN)、ラジオ局(インフィニティー)、ビデオ・レンタル店(ブロックバスター)、出版社(サイモン&シュスター)、ケーブル会社(MTV、ニケラデオンなど)、番組制作会社(スペリング・エンターテインメント)といったコンテンツとメディアの双方を傘下に置き、AOLタイム・ワーナーに次ぐ巨大なメディア企業となった。

 吸収合併の結果、ひとつの会社がコンテンツとメディアを支配し、巨大化していくと、どういったことが起こるであろうか。当然のことながら、不公正な取引、マーケット参入障壁が生まれやすくなってくる。

 たとえば、ワーナー・ブラザースが制作・配給する映画やテレビ番組が、ワーナーの傘下にあるネットワークやケーブル会社に優先的に使用許諾され、そこで独占的に放映されるとしたらどうなるか。ディズニーの子会社であるミラマックスの映画が、ABCで優先的にテレビ放映されるとしたらどうだろう。身内会社間で使用料や期間などの条件が不適切に決められかねない。コングロマリットの傘下に入っていない独立系制作会社や競争会社からは、競争が損なわれてしまうのではないかと懸念されている。そしてその懸念を裏打ちするように、巧妙なやり方で身内会社間の不公正な取引が行なわれつつある。次回はいくつかの裁判例を紹介する。

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