TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 マネジャーを巻き込んだ訴訟

 ハリウッドでは、マネジャーはスターのみならず、監督や作家、脚本家、プロデューサー、作詞・作曲家や歌手といった、映画製作に必要な人たちのために、エージェント同様、仕事を斡旋して、契約交渉を行なっている。
 ハリウッドで働くタレントの数を考えると、巨大な利権市場だ。本来であれば、エージェントの登録を受けなければならない業務でありながら、タレントの日程を管理するマネジャーは、着実にエージェント化している。では、タレントがエージェント登録していないマネジャーに手数料の支払いを拒否したらどうなるであろう?

 弁護士からマネジャーに転身したロバート・ワックスは、コメディアン・タレントのアーセニオ・ホールのマネジャーであった。ワックスは、マネジャーという名目であったが、実際には、ホールのために仕事を斡旋していた。ホールは、ワックスのおかげで、『ハーレム・ナイト』('89)や『星の王子ニューヨークへ行く』('88)などで、エディー・マーフィーのお供役として出演し、有名になった人。テレビのトーク番組などのレギュラーをもつまでになった。しかし、ホールは1990年に突然ワックスを首にした。

 不満なワックスは、ホールを相手どって50パーセントの利益配分と損害賠償を求めてカリフォルニア州の裁判所に提訴した。ホールは、ワックスがエージェントの資格なしに、仕事を斡旋していたことに目をつけ、彼への手数料の支払いを拒否した。マネジャーが資格なしにエージェントをしていたのだから、エージェントとしての仕事の部分については、契約は有効でないと反論した。
 本来であれば、ワックスはエージェントの資格をとるべきであったが、実はそれをしていなかった。結果的にこれが命取りとなった。タレントとマネジャーの仲が良い間は、持ちつ持たれつの関係が続く。縁が切れると、訴訟になるのが世の常。ワックスは、ホールを訴えるだけでなく、タレントのために仕事を斡旋するためにはエージェント登録しなければならないと定める法律は、職業自由の原則を掲げるアメリカ憲法に違反すると主張して、カリフォルニア州を相手どって違憲訴訟を提起した。

 結論は、マネジャーがエージェント業務を行なう場合には、登録を受けなければならないという今まで通りの判決となって、ワックスは敗訴した。ホールとの訴訟は途中で和解した。したがって、タレントのために仕事を斡旋するには、エージェント登録しなければ手数料を踏み倒されても文句を言えないようだ。もっともエージェントになると、タレントのギャラの10パーセント上限の手数料と決まっている。踏み倒されるリスクはあっても、手数料の制限のないマネジャーの方がうまみがあるかも知れない。

 クリエイティブ・アーチスト・エージェンシー(CAA)と呼ばれる有力タレント・エージェントの創設者であるマイケル・オービッツも、CAAを辞めてから、一時映画スタジオであるディズニーの社長になったこともあったが、その後マネージメント会社を設立した。アーチスト・マネージメント・グループというマネージメント会社では、映画の企画・製作にも進出している。多くの有名タレントを呼び込むことができるオービッツにとって、エージェントより、マネジャーの方が旨みのあるビジネスなのであろう。
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