TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 くまのプーさんを巡る訴訟(1)

 くまのプーさんといえば、子供の童話にでてくる主人公テディベアだ。その愛くるしいキャラで一躍有名になり、プーさんグッズは全世界で長年にわたり売られているヒット商品だ。その販売を一手に引き受けているのがディズニー。プーさんは、ディズニーが他社からライセンスを受けているキャラクターだ。ミッキーやドナルドダックといったオリジナルのキャラを誇るディズニー・ファミリーのなかでは数少ないよそものということになる。
 株式アナリストによると、2000年度のディズニーの収益のうち、くまのプーさんは45億ドルを稼ぎ出した。プーさんの稼ぎはディズニー全体の収益の12.5%にも相当するといわれる。プーさんのビデオ、プーさんのTシャツ、カップ、文房具、その他もろもろ、よそものプーさんは、ディズニー・ファミリーきっての稼ぎ頭だ。

 そのプーさんに会計疑惑がもちあがっている。といってもプーさんが会計をごまかしているのではない。プーさんを売っているディズニーが、権利者に対して支払わなければならないロイヤルティ(使用料)をごまかしているのではないか、という疑いがもたれている。ディズニーにプーさんを使用許諾しているのは、原作者から権利を取得したスレジンジャーというアメリカ人。スレジンジャーは、ディズニーとの間でプーさんの使用許諾契約を結んだ。
 その契約によると、ディズニーはスレジンジャーに対して、プーさんグッズの販売から得た収益の2.5%のロイヤルティを支払わなければならない。にもかかわらず、ディズニーはロイヤルティの金額をごまかしてきたという。支払いを要求しても支払ってもらえないとなると、行き先は定番の裁判所。スレジンジャーは、1991年ディズニーを相手取って、プーさんグッズの使用料を支払うようカリフォルニア州、ロサンゼルスの裁判所に提訴した。

 「ディズニーは、プーさんグッズの売り上げを30億ドル以上ごまかして、少なく見積もっても3,500万ドルものロイヤルティが未払いとなっている」と主張している。さらに、スレジンジャーは、プーさんのビデオやコンピューターゲームからの販売も入れると、ディズニーの未払い額は3億ドルにもなるそうだ。プーさんを巡る訴訟は、1991年から始まり、10年以上たった現在も双方の歩み寄りはない。
 スレジンジャー対ディズニー裁判。訴訟の結果によって、プーさんグッズの将来が決まる。もし、ディズニー側に契約違反があると判断されれば、プーさんのライセンスを失うことにもなりかねない。にもかかわらず、いままでメディアで話題になることがなかった。それは何故か?過去10年間にわたり、当事者の要求で、この訴訟に関して裁判所に提出された書類が封印されてきたためだ。

 会社の会計帳簿や経理情報のように秘密性が高い情報は、当事者の要求で裁判書類を封印することがよくある。したがって、当事者以外の第三者にはこの訴訟の情報を得ることができなかった。そのためこの訴訟について語られることは少なかった。メディア関係者からの情報開示要求が高まり、ついに2001年12月、ロサンゼルス上級裁判所の判事は、いままで封印されていた裁判書類の一部を一般にも閲覧できるよう開放した。
 見せたくない裁判書類を開放されてしまったディズニーにとっては大打撃だ。その上、ディズニーは1992年から98年の間に、40箱以上のプーさん訴訟を含む関連書類をシュレッダーにかけていたそうで、裁判所から制裁を加えられた。その事実はディズニーの株主たちには伏せられていたというから、まるでエンロンのような展開になってきた。
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