TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 タレントの宣伝広告価値(1)

 有名タレントに商品を宣伝してもらえば、商品は売れるであろう。だから、有名タレントのイメージに大金を払う。タレントたちは、商品を宣伝するスポークス・パースンとなって、商品の宣伝活動に努める。これは、スポンサー契約をゲットした有名タレントが、契約を破って損害賠償の支払いを命じられたお話である。
 スパイス・ガールズといえば、英国出身の5人組の超人気グループだった。個性の強い5人のギャルがポップスを歌うのだが、これが英国を皮切りに、大ヒットして、世界中で有名になった。5人とも英国の30歳以下の長者番付の上位にランクされたというのだから、いかに稼いでいるか計り知れよう。

 ハリウッドに進出して、映画にまで出演するほどスパイス・ガールズは有名になってしまったのだ。またスパイス・ガールズはギャルの間で、ファッション・リーダー的な存在であった。有名な名前を使って商品を宣伝すれば、宣伝効果が絶大だ。
 スパイス・ガールズの名声にあやかりたいと考えたのは、イタリアのスクーター会社だった。早速スパイス・ガールズにアプローチした。1998年のことだ。ことは首尾よく運び、スパイス・ガールズとの間で、スポンサー契約にこぎつけた。契約では、スクーター会社がスパイス・ガールズのコンサート・ツアーのスポンサーになる代償として、スパイス・ガールズのロゴやイメージを使ってスクーターを販売する権利を買ったのであった。

 すなわち、各メンバーの個性に合わせて5通りにデザインされたスクーター「ソニック・スパイス」を生産し、ヒット商品にすることをもくろんでいた。したがって、スパイス・ガールズのイメージとは、各メンバーのイメージやスタイル、パーソナリティを意味していた。スクーター会社は、契約したとき、スパイス・ガールズがメンバーチェンジをしないことを前提としていた。
 スパイス・ガールズのコンサート・ツアーは、1998年3月5日、イタリアをスタートし、ヨーロッパ各国、そしてアメリカへと予定されていた。コンサート最終日は8月31日の予定であった。ところが、ヨーロッパ・ツアーの途中、5月27日のことである。ジンジャー・スパイスことジェリ・ハリウェルがグループを辞めるとマネジャー兼弁護士に伝えた。そのニュースはすぐに他のメンバーたちに知らされた。ハリウェルは同日グループを去った。

 ツアーの途中で、メンバーが脱退してしまうなんて、スポンサーをしているスクーター会社にとっては一大事だ。脱退メンバーの顔やロゴをつけたスクーターをスパイス・ガールズのスクーターとして売ったとしても、売れるわけがない。人気商品となるはずのスクーターの売り上げに大打撃を与えてしまったそうだ。
 スパイス・ガールズへの支払いをストップしたスクーター会社。スパイス・ガールズは、スポンサー費などの未払い分の支払いを求めて英国の裁判所に提訴した。ところが、裁判で、実は他のメンバーは、ツアーの途中でハリウェルが脱退することを事前に知っていたこと、そして知っていたにもかかわらずスクーター会社に隠して、スポンサー契約をゲットしたことが明らかになった。

 支払いを求めて提訴した訴訟。逆に、スパイス・ガールズは、スクーター会社に対して、もらったスクーターの代金と裁判費用を支払わなければならない羽目になってしまった。有名タレントといえども、うそをつくと、トホホな結末になりますよ。ご注意。
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