TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 株主代表訴訟―AOLタイムワーナーの場合その2

 前号につづき、AOLタイムワーナー、そして会社幹部らを相手取って提起された株主代表訴訟について紹介する。

 AOLとタイムワーナーとの合併は、政府の承認を得て、2001年1月11日に正式にAOLタイムワーナーとなった。タイムワーナーがもつコンテンツ資産を、AOLの提供するネット上で配信したり、オンライン広告からの収入が見込めると、合併当時はみんな期待していた。しかし現実はそううまくいかなかったようだ。ドット・コムのバブルがはじけた頃から、ネット企業の破綻、株価の暴落と、こんなはずでは・・・という現実に直面せざるを得なくなった。
 ワシントンポスト誌の記事によると、AOLの内部では、2000年9月末〆の四半期決算では2,320万ドルの損失、そして2001年度の広告収入は1億800万ドルの損失を予測していたという。実は、裁判書類によると、9月に開かれた幹部ミーティングで、AOLの広告収入が激減していること、その損失額は1億800万ドル以上になるであろうという報告がなされていたそうだ。

 タイムワーナーとの合併を発表したが、政府からの承認を待っている間に市場が変わった。もし、業績悪化がばれて、株価が下がってしまっては困る、とAOLの幹部たちは考えたのであろうか、2000年10月18日に早速、「2001年の第1四半期の広告収入は80%も大幅にアップし、6億4,900万ドルの収入が見込まれる」と新聞発表していたそうだ。しかも、AOLタイムワーナーが証券取引委員会(SEC)に提出した2001年度の年次会計報告では、AOLタイムワーナーは382億ドルの収入があり、そのうち広告収入は85億ドルあったと報告している。この会計報告は、アメリカの大手会計事務所であるアーネスト・ヤング(エンロンで有名になったアンダーソン会計事務所ではない)が監査した。
 この訴訟で被告として訴えられているAOLタイムワーナーの幹部には、会長のスティーブン・ケース(Stephen Case)、共同最高執行責任者のロバート・ピットマン(Robert Pittman)、そして最高執行責任者のマイケル・ケリー(Michael Kelly)が含まれている。スティーブン・ケースはAOLタイムワーナー合併の立役者であった。他の二人もケース同様、合併前AOLの経営者であった。

 会社の資産価値を知りうる立場でありながら(会社の経営者だから当たり前のこと)、会社の会計報告に虚偽の申告を記載し、AOLタイムワーナーの株価を不正に吊り上げ、バブル状態をつくり上げたといわれる。嘘の会計報告がなければ、株主たちはAOLタイムワーナーの株を買わなかったはず。その上、AOLタイムワーナーの幹部たちが株価暴落前に持分株を売り逃げしていたとしたら、重罪だ。
 ちなみに、ニューヨークタイムス誌によると、スティーブン・ケースは株価が急落下し始める2000年初めに1億ドル相当のAOLの株を処分していたそう。アメリカの証券取引委員会もことの重大さから、AOLタイムワーナーの幹部の取引について調査を入れている。

 ウォルト・ディズニーも例外でない。Eigafan.comでもご紹介したくまのプーさんの訴訟でトラブったディズニー。エンロンまがいに裁判書類をシュレッダーにかけて処分した上、株主には何も知らせていなかった。そのおさわがせディズニーが株主たちに訴えられている。

 子供に夢を与えるウォルト・ディズニーだったが、株価は暴落。訴状によると、プー裁判の深刻さがはじめて株主に知らされたのは、2002年5月15日。プー裁判そのものは1991年に始まっている。しかし10年以上にわたり裁判書類を封印してきたディズニー。株主たちにも、その詳細は知らされていなかったようだ。
 プー裁判の審議は来年の3月に行われる予定。もし、ディズニーが敗訴したら、その損害賠償額はとてつもない金額となろう。そうなるとディズニーの株価にも影響する。ディズニーの株価は、プー裁判での不祥事がばれた当時24ドル50セントだった。現在では15ドルあたりにまで落ちこんでしまった。株主代表訴訟では、ディズニーの看板幹部であるマイケル・アイズナーも訴えられている。でも、アイズナーって超金持ち。株主たちに訴えられたって、そんな小さなこと気にしないかも・・・。
■2001年度の年次会計報告:以下URL内2001 Annual Report on Form 10-K (March 25, 2002)> http://www.aoltimewarner.com/investors/sec_filings.adp
■ディズニーの訴状はこちらから> http://www.kmslaw.com/
<<戻る


東宝東和株式会社