TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 ビデオ・オン・デマンドを巡る訴訟(2)

 今回も先週に引き続き、インターテイナー対AOLタイムワーナー、その他の反トラスト法(米独占禁止法)訴訟についてです。
 インターテイナーのビデオ・オン・デマンド(VOD)ビジネスとは、IPネットワークを使用して、顧客に年中無休でコンテンツをパソコン上でストリーミング上映するサービスを提供することだ。IPネットワークとは、電話線を使ったダイアルアップではなく、DSLもしくはケーブルを使用している。5年間にわたりVODの技術を開発し、特許を取得しているというからかなりの初期投資だ。コンテンツを違法にコピーできないようプロテクションがなされているので、コンテンツを提供する側にとっても安心というのが売りだ。

 アメリカでこのVODを利用するには、はじめにアカウントを開設して、パスワードをもらわなければならない。誰でも入れる訳ではない。アメリカにいること、パソコンの環境が整っていること、などが必要だ。インターテイナーに登録して、映画を注文する。映画を見終わると、それでおしまい。途中でストップした場合、あとで残りを見ることもできる。ストリーミングなのに、早送りしたり、巻き戻しも可能だそうだ。
 システムの準備ができたら、次はコンテンツ集め。インターテイナーは、コンテンツの85%以上をハリウッド映画にあてこんでいた。ワーナーブラザース、ソニーピクチャーズそしてニューラインピクチャーズとの間で「試験的」にライセンス契約を結んで、VODがビジネスとして成り立つかどうかを調査した。この段階では、顧客が一作品3ドル99セントでVODを注文すると、スタジオ側は1ドル99セント受け取るという折半になっていた。

 インターテイナーはVODビジネスに本格的に参入することを決定し、スタジオ側と長期的なライセンス交渉を始めたのは、1998年1月ごろであった。1998年というと、タイムワーナーがAOLと合併を決定する前のことだ。インターテイナーは、ワーナーブラザースとの間で秘密保持契約を結び、そのVODの技術が外部に漏れないように注意を払った。
 同年8月には、ワーナーブラザースとの間で50/50で折半することを条件に、VOD用に作品を提供してもらうライセンス契約を結んだ。2000年にはライセンス契約を2004年まで延長し、2001年6月には、ワーナーブラザースに対して、100万ドルの前払い金を支払うことを約束し、6月と12月の2回に分けて支払ったという。2001年12月20日には、ワーナーブラザース側から一作品のライセンス料を50%から60%に値上げするよう要求されたが、ワーナーブラザースから作品の提供を受けていたので、インターテイナーのVODビジネスは続いていた。

 ところが、2002年4月1日に突如、ワーナーブラザースからインターテイナーのセキュリティに苦情を言い出すようになり、いままで提供した作品80本と新作をVODから外すよう要求してきた。その後、ワーナーブラザースから新作は届くことなく、VOD用に提供してきたのは6作品のみであったという。
 ユニバーサルとソニーピクチャーズとの間でも同様であった。ユニバーサルはインターテイナーに対して、初年度200万ドルの前払い金を要求した。その他ライセンス料として60%。インターテイナーの計算によると、一作品VODで発信すると、顧客一人当たり、180ドルをユニバーサルに支払うことになり、これではビジネスとして成り立たない。

 インターテイナーの主張によると、スタジオ側が一方的にライセンス料を吊り上げたのは、その裏でMovielinkというジョイント・ベンチャーをつくり、独自のVOD技術を開発し、同時に、自分たちが管理するコンテンツのアグリゲーターとしての役割を果たすためだという。
 Movielinkには、ワーナーブラザース、ソニーピクチャーズ、ユニバーサルの他、MGMとパラマウントがパートナーとなっている。ディズニーと20世紀フォックスはまだ参加していないが、5つのメジャースタジオがもつ映画、テレビ番組、音楽といったコンテンツを管理するMovielink。独占状態が生じる。

 しかし、コンテンツをもつものが、ライセンスの条件や値段を好きなように、裁量的に決めるのは当然のこと。スタジオからライセンス契約の更新を拒否され、作品の提供を受けられなくなったインターテイナー。反トラスト法違反を理由に提訴しているが、コンテンツをもたないものと、スタジオという巨大な組織との間の訴訟はどういった展開を見せるのであろうか。
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