TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 マイケル・オービッツの盛衰(1)

 「スーパーエージェント」と呼ばれ、ハリウッドの大スター、監督、脚本家たちを代理し、映画スタジオと同じくらい巨大な権力をもち、恐れられていた男といえば、マイケル・オービッツだった。かのオービッツが最近トラブル続きだ。

 マイケル・オービッツは、UCLAで芸術を専攻し、卒業後すぐにエンターテインメント界に入る。1975年クリエイティブ・アーティスト・エージェント(CAA)を創設。CAAは、80年代には、トム・クルーズ、ロバート・デ・ニーロ、といった大物スター、スピルバーグ監督、スコセッシ監督らを代理していた巨大エージェントだ。

 その後、親友でもあるディズニーの会長マイケル・アイズナーに引き抜かれて古巣のCAAを去った後、ディズニーの社長の座をゲットした。しかし、ディズニーでの業績は思わしくなく、約一年で辞職。退職金は1億ドル相当と言われる。在職中大した“貢献”もせずに、巨額な退職金を手にしたため、ディズニーの株主たちから“お手盛り”ではないかと株主代表訴訟を起こされた。
 辞めたCAAにはもどれない。新しいタレント・マネージメント会社を起こし、昔の顧客たちを呼びもどし、本業にもどった。エージェント業はオービッツの天職。大企業の幹部職には向いていないのであったのであろうか…。

 オービッツの翳りは、オービッツがカナダにある舞台製作会社に投資を始めたところからジワジワ始まる。カナダの舞台製作会社とは、リベントという会社。1979年に、創始者のひとりであるガース・ドラビンスキーなる男が母体となるシネプレックスという会社をつくった。それが北米で2番目に大きい劇場チェーンにまで成長していった。リベントでは、『オペラ座の怪人』や『蜘蛛女のキス』といったヒット作を上演し、話題となっていった。そして、1993年には上場を果たすまでになった。
 リベントの成功に目をつけたのがオービッツ。1998年4月には、オービッツはリベントに2,000万ドルを投資し、見返りに経営権を取得した。会社の経営権を握り、帳簿を見てみると、どうやら期待していたようにはいかなかったようだ。同年8月のこと。会社の会計帳簿に不正が発覚する。その金額はかなりの高額であった。数百万ドルに及ぶ金額が元幹部たちに不正に支払われていて、帳簿には記載されていなかったそうだ。その後は、ニュースでも報道された通り。元幹部らは詐欺で逮捕。会社は破産。株主からはクラス訴訟を起こされた。一度不正が発覚すると、崩れるのも早い。どこかの日本企業のようだ。これは、カナダで起こった最も大きな企業不正事件のひとつとして話題になった。

 この不正事件で、一番ダメージを受けたのはオービッツではなかろうか。もう一度華やかな舞台で勝負しようと、急成長の舞台製作会社に大金を投資し、経営権をゲットしたところ、数ヶ月後には、元幹部たちの不正が発覚。そして経営破綻。元幹部たち相手に2億2,500万ドルの損害賠償訴訟を起こしているが、元幹部たちもこれに負けじと、1億ドルの損害賠償訴訟をオービッツら幹部に対して起こして対戦している。泥沼状態だ。
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