TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 マイケル・オービッツの盛衰(2)

 今週も引き続き、「スーパーエージェント」としてハリウッドで巨大な権力を持ち、エンタテイメント界を牛耳っていた男マイケル・オービッツについて。
 マイケル・オービッツは、UCLAで芸術を専攻し、1969年に卒業した。すぐにエンターテインメントの世界に入る。登竜門のひとつ、ウイリアム・モーリス・エージェントのメール・ルームで働きはじめる。メール・ボーイからタレント・エージェントに昇格し、テレビ番組にタレントを送り込み頭角を現す。

 そして、同僚3人とともに、クリエイティブ・アーティスト・エージェント(CAA)を創設する。1975年のこと。CAAは、80年代には、トム・クルーズ、ケビン・コスナー、ダスティン・ホフマン、バーバラ・ストライサンド、ロバート・デニーロ、マイケル・ダグラスといった大物スター、スピルバーグ監督、スコセッシ監督そして有名な脚本家たちを代理し、映画スタジオを相手に、「パッケージング」を提示しては、お抱えタレントを送り込み、高額のギャラを要求し、更に巨大化していった。
映画製作に必要な人材を「パッケージング」して有名になった。

 タレントを売り込むだけでなく、企業買収にも一役買っていた。ソニーがコロンビア・トライスターを、パナソニックがユニバーサル・スタジオを買収する際も、オービッツがブロカーとして仲介していたそうだ。巨額の買収だったので、オービッツの見返りも想像するに難くない。当時のオービッツは、ハリウッドでビジネスする人々のお目付け役とでも呼ぶべきか、かなり怖い存在だった。

 巨大なハリウッド・ビジネスの中核であるタレント事業を牛耳っていたオービッツ。カナダの舞台製作会社での投資の失敗、バブル期のネット事業への投資も失敗した後、本業のマネージメントに専念。1998年にはアーティスト・マネージメント・グループ(AMG)という製作会社を立ち上げ、マネージメントと2本立てでハリウッドに再び返り咲く予定であった。個人の資産家からの出資を集め、期待の星としてデビューしたAMG。2000年には、カナル・プリュスのテレビ部門との間で契約を結び、カナルから年間800万ドルの出資を得て、テレビ番組を製作することになっていた。カナルからの出資は、カナルのためのテレビ番組製作にのみ使用しなければならなかった。当たり前のこと。
 ところがすぐに、AMGとカナルとの間のジョイント・ベンチャーは暗礁に乗り上げる。カナルを買収したユニバーサル・ビベンディの監査がAMGの経理を調査したときだ。AMGがカナルから受け取った出資のうち、200億ドル以上の使用目的が問題となった。当時のAMGの社長キャシー・シュルマンは、ユニバーサル・ビベンディの監査担当者にその使用目的を問われた。2002年2月ごろだ。シュルマンは、「AMGがカナルの金を使って、カナルとは関係のないプロジェクトを行っている」ということを開示した。

 虚偽を通すことができなかった元AMG社長は、内部告発と正直な開示を行ったことにより、オービッツの怒りにふれ、即刻クビとなった。シュルマンは契約違反、詐欺、名誉毀損を理由に、オービッツ、AMGその他関連会社を提訴している。カリフォルニア州ロサンゼルス上級裁判所事件番号BC282846として継続中。オービッツを訴えているのは、シュルマンだけでない。AMGのテレビ部門の元社長であるエリック・タネンバームという幹部からも9,600万ドルの契約違反の損害賠償訴訟も起こされている。自分が雇った元幹部らに売ったえられたオービッツ。混乱状態はどこまで続くのか?
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