TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 『ロジャー・ラビット』と収益配分訴訟(2)

 収益配分には、グロス収益配分とネット収益配分がある。グロス収益配分の場合、収入から経費を差し引く前の金額から合意されたパーセンテージで収益を受け取ることができる。

 スタジオは使った経費を回収する前に収益配分を支払わなければならないから、グロス収益配分を避けたい。有力な監督とかタレントといった交渉力をもった人でない限り、スタジオからグロス収益をゲットすることはない。

 これに対して、ネット収益配分は、スタジオが得た収入から、プリント代、宣伝広告費などの配給にかかった経費、手数料、製作費、利息などすべてありとあらゆる経費、手数料を差し引いた後、もし残っていればその収益配分にあずかることができる。収入から差し引かれる経費、手数料とは何か? スタジオでは、以下のような項目を控除するのが慣例となっているようだ。
(1) 配給手数料。
(2) 配給にかかった経費。
(3) グロス収益配分。
(4) 製作費。資金調達費。利息。
(5) 後払いに合意している人への支払い、など。

 具体的な数字を見てみよう。以下は業界紙であるハリウッドレポーターに掲載された『身代金』('96)のネット収益会計報告である。ディズニーが1998年3月31日〆の会計報告を作成した。メル・ギブソンが主演したサスペンス映画のネット収益はマイナスと報告されている。

収入合計:$188,587,025
控除合計:$291,748,106
ネット収益:-$103,161,081
気になる控除明細は、

(1) 配給手数料として、$64,461,741
(2) 配給にかかった経費として、$95,757,378
(3) グロス収益配分として、$24,910,342
(4) 製作費として、$75,439,225
(5) オーバーヘッドとして、$11,315,884
(6) 利息として、$19,863,536

 ネット収益はマイナスなので、配分はゼロとなる。ネット収益参加者には、いつまでたっても小切手は送られてこない訳だ。しかし、この数字はあくまでもスタジオ側が独自に計算したもので。真偽のほどは分からない。一方的な会計報告に不信をいだいたときは、スタジオに帳簿を開示してもらい、内容を検査する。もしスタジオが検査要求を拒否した場合、定番の裁判所行きとなる。

 『ロジャー・ラビット』の訴訟に話をもどそう。ディズニーとの間で収益配分をもらう約束をしていた原作者は、ディズニーを相手取って、帳簿の開示と収益配分を求め、カリフォルニア州ロサンゼルス上級裁判所に訴訟を提起した。裁判所は、帳簿を手元に置き、管理しているディズニー側に、収益配分の金額が正確であることを証明する義務があると判断した。事実審は継続中である。
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