TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 映画の売り方

 映画は売らなければならない。映画は配給後、観客がお金を払ってくれてはじめて収入となる。製作費を回収することができる。次の作品の製作に使うことできる。以下は完成した映画はもちろん、製作段階で売りに出される映画の配給契約の法律問題について解説する。  「映画の配給権を買う」とは、「特定の地域で、限定された期間、特定のメディアで、ある映画を配給し、利用することの許諾(ライセンス)を受けること」を意味する。ライセンス契約とも言われる。ここでは、著作権そのものを売る場合を含まない。許諾者はライセンサーと呼ばれ、通常、映画の著作権を持つかもしくは、配給権をライセンスする権限をもっている。許諾を受ける者は、ライセンシーと呼ばれ、契約で合意された権利のライセンスを受ける。ライセンシーは、ライセンサーに対して、ライセンスの対価を支払う。ライセンス期間が終了し、もしくは早期解除されると、ライセンスされた権利はライセンサーにもどる。したがって、ライセンスは著作権の譲渡ではない。
 ライセンス契約に対して、セールス・エージェント契約Sales Agent agreementというのがある。海外での販売に慣れていない、社内に販売担当者がいない場合によく利用される。エージェントは、ライセンサーに代わって、映画の配給権を買ってくれる相手を見つけ出し、ライセンス交渉を代行してくれる。ライセンス契約と違う点は、セールス・エージェント契約を結んだだけでは、ライセンス契約とはならない。エージェントが斡旋したライセンシーとの間でライセンス契約を結ぶことによって初めて、映画は配給される。エージェントの手数料は、ライセンス契約金のパーセンテージで支払われ、成功報酬が慣行だ。  映画の買い手は、世界各国の配給会社だ。エージェントは、ライセンシーではないので、MGやロイヤルティは支払わない。売り手と買い手を引き合わせて売買をまとめてくれるのがエージェントの役割だ。エージェントは、カンヌやミラノ、サンダンスやアメリカン・フィルム・マーケットAFMといった著名な映画祭に出品して、映画の買い手を探して交渉する。
 エージェントの見つけてきたライセンシーとの間で配給権のライセンス契約が成立すると、配給・ライセンス契約を結ぶ。エージェントはあくまで仲介屋だ。商談がまとまり、買い手が保証金を支払うと、エージェントは、その中から合意された比率で手数料を受け取るという課金システムをとる。手数料は、配給権の値段の5%から50%まで、ケース・バイ・ケースだ。映画の配給権はジャンルや主演スター、地域ごとに値段が異なる。  ライセンサーを代行して、配給・ライセンス契約にサインすることができるエージェントもいる。この場合、エージェントとライセンシーが契約を結び、MGやロイヤルティの支払いはエージェントを通すことになる。ライセンサーとエージェントの関係が親密な場合、親子関係にあるような場合は成り立つ。そうでない場合は、最終的な契約責任はライセンシーに降りかかるような内容の契約になっていることが多いので、注意を要する。

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