TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 『ラスト サムライ』 裁判1

 ご存知ハリウッド・スターのトム・クルーズ主演・製作の映画。舞台は19世紀の日本。南北戦争の英雄、オールグレン(トム・クルーズ)は、原住民討伐戦に失望し、酒に溺れる日々を送っていた。そんな彼が、明治維新直後の近代化を進める日本にやってくる。日本政府に雇われ、西洋式の戦術を教えるためだ。

 オールグレンが初めてサムライと戦いを交えた日、負傷し捕えられ、勝元(渡辺謙)の村へ運ばれる。勝元は、天皇に忠義を捧げながら、武士の根絶を目論む官軍に反旗を翻していた。異国の村で、軟禁生活を送るうちに、忠義を尽くして名誉を重んじる武士道精神に強く惹かれていくオールグレン。そして、彼はその静かで強い精神に心を動かされ、見失っていた生き方を取り戻し、自らも刀を手にサムライとなって戦いに挑んでいく……。結末はまだ映画を観ていないトム・ファンのためにとっておきましょう。
 
 アメリカでの興行収入は2004年2月の時点で100万ドルを超える大ヒット。日本では2003年末に劇場公開されてからロングランを続け、アメリカと同じくらいの興行収入を稼ぐヒット映画となっている。そして、その快進撃は衰えることなし。トム・クルーズ自ら日本に来て、映画のプロモーションにも余念がなかった。よほど思い入れがある映画なのであろう。

 ハリウッド・スターと日本人俳優の夢の競演。もっとも注目できることは、日本人俳優がハリウッドで認知されつつあるということだ。俳優の渡辺謙さんはオスカーへの前哨戦と言われるゴールデン・グローブ賞で助演男優賞としてノミネートされた。残念ながら同賞の受賞は逃したが、アカデミー賞の助演男優賞部門にもノミネートされた。演技部門で日本人がノミネートされたのは、66年の『砲艦サンパブロ』で助演男優賞候補となったマコ(マコ岩松=56年米国籍取得)以来という。

更に、米映画俳優組合は15日、第10回映画俳優組合賞の助演男優賞候補に『ラスト サムライ』に出演した俳優の渡辺謙さんを選んだと発表した。1995年から続いている同賞は、映画やテレビの俳優ら約12万人の組合員が毎年1回、映画とテレビの部門で優れた演技をした俳優を投票で選ぶもの。授賞式は2月22日にロサンゼルスで開かれるが、日本人が候補に入るのは極めて異例のことと言われている。
 賞とり合戦に夢中になっている間でも、ハリウッドにトラブルは常につきもの。映画に対する評価はいろいろあるであろう。しかし、映画がヒットすれば必ずと言っても良いくらいあるのがクレジットに関するトラブルだ。

 脚本家であるガーナー・シモンズ、マイケル・アラン・エディ、そしてロバート・シェンカンは、『ラスト サムライ』は、自分たちが12年前に書いた脚本を基に作られたものであり、自分たちを脚本家として映画でクレジットするよう抗議し、脚本家組合に仲裁を求めた。しかし、脚本家組合は、仲裁を拒否した。そのため、脚本家たちはカリフォルニア州の連邦裁判所に提訴した。脚本家にとってクレジットとは、お金であり、次の仕事へのチャンスであり、名誉でもある。『ラスト サムライ』のように、興行的にもヒットし、アカデミー賞候補の可能性のある映画だと益々重要な意味をもつのだ。
■『ラスト サムライ』オフィシャルサイト(英語)  > http://lastsamurai.warnerbros.com/home.php
■『ラスト サムライ』オフィシャルサイト(日本) > http://www.lastsamurai.jp/
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