TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 『ラスト サムライ』 裁判2

 これは『ラスト サムライ』の基となる脚本を書いたのは自分たちであると主張し、映画での適切なクレジットを求めるため裁判所に訴えた脚本家たちのバトルだ。

 ハリウッドでは、複数の脚本家を雇って脚本を書き換えるのは当たり前。最初の脚本と映画で使用した脚本が全く別ものなんてこともよくある。そんな時、どの脚本家が映画の“脚本家”としてクレジットをもらうことができるのかが問題となる。“脚本家”としてクレジットが与えられると、スクリーンでの表記はもちろんのこと、脚本家組合からレジデュアル(二次使用料)が支払われる。映画がヒットすれば、脚本家は潤う。脚本家が著名な映画祭や賞にノミネートされたり、受賞すれば脚本家としての評価も上がる。次の仕事も増えていく。脚本家にとって“脚本家”としてのクレジットは重要な意味をもつ。だから争う。
 脚本家組合の規則によると、組合がクレジットの記載を決める権限をもつことになる。映画の撮影が完了した時点で、製作会社は暫定的な脚本家のクレジット記載を行い、組合に通知する。クレジットから外された脚本家で不服のある者は、組合に仲裁を申し立てることができる。申し立てを受けた組合は、仲裁人を指名してその人の脚本と完成した映画の脚本とを読み比べて、どの脚本家にクレジットを与えるべきかどうかを決定する。クレジットは脚本家にとって重要な表記。組合は中立的な立場でどの脚本家にクレジットを与えるか決めることになっている。
 『ラスト サムライ』で脚本を書いたとしてクレジットされているのは、以下の3人だ。
 ●ジョン・ローガン
 ●エドワード・ズウィック(監督と製作兼ねる)
 ●マーシャル・ハースコヴィッツ(製作兼ねる)

  脚本家のクレジットを争う裁判で訴えられたのは、脚本家組合、ワーナーブラザース、レーダー・ピクチャーズ、そして上記3人の脚本家たち。業界紙であるバラエティ誌によると、訴えているガーナー・シモンズとマイケル・アラン・エディは、12年前『West of the Rising Sun』という題名で脚本を共同著作した。1870年代の日本が舞台で、アメリカ人がサムライたちといっしょに戦うという内容であった。その後ロバート・シェンカンが手を加えて脚本が完成したが、製作会社サイドでお流れになってしまったそうだ。その後この脚本がどういう道をたどったのかは定かではない。訴えられた監督・製作・脚本家のズウィックは、エディが最初に書いた脚本を読んだことはないと否定しながらも、完成した脚本に良く似たものを読んだ記憶があるといっているそうだ(APニュース)。
 クレジット表記が争われる場合、これを決定する権限をもつのが脚本家組合。脚本家組合が仕切る仲裁手続きは、密室でおこなわれる。だれがどういった判断をしたのか訴えている脚本家には知らされない。近年クレジットを争うクレームが増えている。昨年だけで210件のクレームが脚本家組合に出されている。しかしながら仲裁にかけてもらうことができたのは67件だけだ。しかも仲裁の内容は秘密裏とされる。訴えを起こしている脚本家たちの多くは、仲裁されることなく門前払いを受けたわけだ。脚本家たちの中には、脚本家組合のクレジット表記や仲裁手続きに不信をいだき、脚本家たちの権利を守るべき立場にあるにもかかわらず、適切に機能していないことを不満としているそうだ(ニューヨークタイムズ紙)。
■脚本化組合のサイト> http://www.wga.org
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