TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 インターテインメントv. フランチャイズ・ピクチャーズ訴訟(1)

 インターテインメントは母国ドイツで映画を配給するメディア企業だ。ドイツ・マネーがバブル全盛期に株式公開によって潤沢な資金をゲットし、映画ビジネスに参入した企業のひとつ。90年代後半にかけてドイツでは、映画制作に対する税制優遇が追い風となって、映画投資が盛んとなった。ドイツ・マネーの多くはハリウッドへと流れていった。そして、ヒットに結びつくハリウッド映画の配給権をゲットするために巨額なカネが動いたのは記憶に新しい。ドイツ・マネーのバブルが去った後、残された遺産は訴訟であった。
 インターテインメント対フランチャイズ・ピクチャーズの訴訟は3年前に遡る(※Intertainment v. Franchise Pictures。ロサンゼルス上級裁判所事件番号BC286612)。インターテインメントはアメリカの映画制作会社であるフランチャイズとの間で、“アウトプット”の契約を結んでいた。映画業界でいう“アウトプット”とは、ある一定の期間内に制作される映画すべての配給権をゲットすることをいう。いわゆる“一本釣り”(作品ごとに配給権の交渉)をするではなく、これから作られる作品群をまとめ買いする。10本買うと、その中にヒット作が1本は入っているであろう、との期待と、そのヒット作をライバル会社にとられないようにするためでもある。全部コケる場合もあるので、リスクは大きい。
 1999年に株式公開を行って資金はたっぷりあるインターテインメントは、アウトプットのパートナーとしてフランチャイズを選んだ。フランチャイズは、スタジオからの出資を全く受けない生粋の独立系制作会社だ。しかし、フランチャイズの作る映画には、ブルース・ウィリス、ジョン・トラボルタ、ケビン・コスナーや、最近は出番が減ったといえ往年のスター、シルベスタ・スタローンなどの有名人が続々と名を連ねる。
 何故有名スターが出演しているのか? しかもギャラは極めて安い。ギャラが低い分、制作コストを低く抑えることができる。その秘訣は、どこのスタジオにも引き受けてもらえずに困っている企画を映画化することだ。すでに脚本は出来上がっているから、原作権や脚本料への投資は必要ない。さらに、どのスタジオも資金提供したがらない企画なので、安く買いたたくことさえできる。ただ、どんな企画でも良いというわけではない。彼らの狙いは、有名スターがどうしても映画化を望んでいる企画に限る。有名スターがつけば、海外からの資金調達が有利だ。出来上がった映画はワーナー・ブラザースがアメリカで劇場公開する。アメリカ国外から配給会社からの資金、税制優遇、政府からの補助金制度、人件費の安いカナダロケなどを利用して映画を製作するというパッケージを開発した。
 フランチャイズがインターテインメントとの間で結んだアウトプットの契約内容とは、フランチャイズが制作する映画の製作コスト47%を負担する代わりに、5年間にフランチャイズの作る映画のヨーロッパでの配給権を買っていた。その作品群には、『隣のヒットマン』(00)、『バトルフィールド・アース』(00)、『アート オブ ウォー』(00)、『追撃者』(00)、『スコーピオン』(01)などが含まれる。
 ところが、2000年12月21日、インターテインメントは、フランチャイズと、フランチャイズの会長であり創設者でもあるエリー・サマハ、社長のアンドリュー・スティーブンス、そして融資元であるインペリアル・バンク(現コメリカ。インペリアル・バンクは、2001年2月20日に被告として追加された。)を相手どって、詐欺と契約違反を理由に、カリフォルニア州の裁判所に訴訟を提起した。その理由は、フランチャイズが意図的に制作費を膨らませて、不当にインターテイメント側の負担をつり上げているというものだった。その損害額は1億ドルになるという。
■インターテインメント社サイト> http://www.intertainment.de/en/home.htm
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