TEXT BY はせがわいずみ(FEATURE PRESS)

 ハリウッド歴史探訪 その9

 連載52でもご紹介したベニス・ビーチは、古くから映画のロケに使われていた場所。かつてはニューヨークのコニー・アイランドのように桟橋に大きな遊園地があり、地名となった“ベニス”という名の通り、運河にはゴンドラが浮いていたという。しかし、今は、桟橋の上の遊園地はベニスの北にあるサンタモニカだけになり、運河のほとんどは埋め立てられるか藻で覆われた状態だ。そんなベニスの歴史をご紹介しよう。
 19世紀半ば、カリフォルニアはメキシコの一部だったことから、現在のベニス地区は“ランチョ・ラ・バロマ”と呼ばれていた。

 その後、アメリカの一部になり、20世紀初めにこの一帯の地主となった富豪アボット・キニー(以下A・キニー)が“ベニス”と名付け、アメリカのベニスとして運河の町に開拓した。
休みにの日には、ローラーブレードをする人や、露天でにぎわうベニスのビーチ沿いの公園
 A・キニーは、運河を造っただけでなく、浜に突き出る桟橋を建造し、その上にさまざまな娯楽施設を建てた。遊園地やレストラン、ダンスホール、水族館、そして浜には屋内の温水海水プールなどがあり、1900年代前半はまさにロスの遊び場としてベニスは栄えていた。そのため、ハリウッドのセレブたちも、こぞって海沿いのホテルの部屋を夏のバカンス用に長期レンタルしていた。そのころの面影は、チャップリンの映画『サーカス』('28)やバスター・キートンの映画『キートンのカメラマン』('28)、『群衆』('28)などで垣間見ることができる。
 その後、プールは裁判に敗訴し閉鎖。また、桟橋は火災に遭いながらも復活を果たしたが、1940年代にロサンゼルス公園管理局の命により桟橋上の娯楽施設はすべて取り壊された。しかし、海から突き出る杭は残されたままとなり、次第にサーファーたちの格好の肝試しスポットとなり、本格的に撤去されたのは1970年ごろになってからだ。
 メキシコの雰囲気を残す街並みを持っていることから、チャールトン・ヘストンの『黒い罠』(58)では、メキシコの国境の町という設定でベニスの商店街が映し出されている。当時の雰囲気を知るには格好の映画だ。

 自動車の製造が飛躍的に伸びた時代背景に対応するため、桟橋の取り壊しが始まった時期には、運河もほとんどが埋め立てられた。ロバート・レッドフォード主演の『サンセット物語』('64)やピーター・フォンダ主演の『ワイルド・エンジェル』('66)などでは、まだ、それなりに美しいベニスの運河を観ることができる。
現在の運河は、藻でいっぱい
 1990年代に入ると、サーフィン、ローラースケート、ローラーブレード、少人数制バスケットボールなどで遊ぶヒップな若者がたむろするベニスでロケした映画がたくさん作られるようになった。

 『ハード・プレイ』('92)でのバスケットボールコートや屋外ジム、『フォーリング・ダウン』('93)はベニス桟橋がラストシーンに使われた。そのほか、スティーブ・マーチン主演の2作、『L.A.ストーリー』('91)と『ミックス★ナッツ イブに逢えたら』('95)もベニスが舞台だった。
『フォーリング・ダウン』では、桟橋の先に売店が建てられていたベニス桟橋
 キアヌ・リーブスの『スピード』('94)で、最初にバスが爆破されるシーンは、ベニスの商店街のメイン・ストリートとローズ・アベニューの角。バスの運転手とキアヌがコーヒーを頼むカフェは、ザ・ファイアー・ハウスと言って今も人気のカフェ&レストランだ。

 ロケに使われるだけでなく、ベニスには、『タイタニック』('97)の特殊効果を担当したデジタル・ドメインや、アーノルド・シュワルツェネッガーのレストラン“Schatzi”がある。また、ウェズリー・スナイプスやオリバー・ストーン、デニス・ホッパーなどのセレブも住んでいる。映画ファンなら、ロサンゼルス観光の際、ぜひ訪れたい場所だ。
『スピード』で登場したメイン・ストリートとローズ・アベニューの角。青いバスが、映画にも出てきたサンタモニカのバス。その向こうの赤い建物がザ・ファイヤー・ハウス

写真&文=シネマ・ナビゲーターはせがわいずみ(フィーチャープレス)
Text & Photo By Izumi Hasegawa/Cinema Navigator


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