TEXT BY はせがわいずみ(FEATURE PRESS)
アカデミー賞授賞式報告
3月24日(日)、ロサンゼルス時間の午後5時半から、アカデミー賞授賞式が開催された。約40年ぶりにハリウッドに戻ってきた今年の授賞式では、21世紀になって最初の年に封切られた作品が対象。記念すべき年にふさわしく、華やかで、そして大変革のあった受賞結果となった。
連載63でご紹介した通り、ハリウッドにはまだまだ根強い人種差別意識がある。しかし、今年の主演女優賞は、初めて有色人種の女優が受賞した。74年間のアカデミー賞史上初であり、同夜名誉賞を受賞したシドニー・ポワチエが主演男優賞を受賞してから実に38年が経っていた。
受賞したハル(アメリカではハリーと発音)・ベリーは、白人の母を持つので肌の色は褐色。しかし、ハルは黒人女優としてこれまでさまざまな苦労を強いられてきた。また、受賞作『チョコレート』の主人公のごとく、多くの人種差別を経験したという。そんな彼女の受賞スピーチはとても感動的だった。
金色に輝くオスカー像(C )AMPAS :R
「この瞬間は非常に大きな意味があります。この賞は私だけのものではありません。これまで活躍してきた偉大な黒人女優すべてのものです。今この瞬間、ハリウッドは有色人種の女性に門を開いたのです」というハルの言葉通り、これまで肌の色だけで多くの人々がその功績を認められるチャンスを逃してきた。そして有色人種の若者の夢がどれだけ打ち砕かれてきたか…。
黒人俳優デンゼル・ワシントンも主演男優賞を受賞し、主演賞を有色人種が征した史上初の出来事が起こった次の日、テレビのニュースで俳優を目指し演劇部に所属する黒人やヒスパニックの高校生と顧問の先生のインタビューがあった。「映画界のトップの賞であるアカデミー賞を受賞することが可能だと分かった。がんばります!!」「部活に参加する有色人種の生徒たちの瞳の輝きが昨日とはまったく違う。肌の色で栄誉を与えられる機会を逃すことはないと確信したのです」などのコメントが紹介された。歴史的瞬間をいくつも刻んだ今年のアカデミー賞は、エンターテインメント業界に真の新時代到来をもたらしたようだ。
主演女優賞に輝いたハル・ベリー(『チョコレート』より)Photo By Jeanne Louise Bulliard (C)Lions Gate Films
差別は人種だけではない。映画業界には、アニメ映画に対する差別もあった。どんなに良い作品を作っても、アニメーションである限り、候補になるのも難しい。10年前『美女と野獣』がアニメーションとして初めて作品賞候補になった時、アカデミーは変革を強いられた。そして、10年経った今年、アカデミー賞に「長編アニメ映画」部門が設立された。喜ばしいことであると同時に、アニメーションに実写映画の地位を奪われまいとした結果という見方もある。
見事、第一回目の受賞という名誉に輝いたのはドリームワークスの『シュレック』。ドリームワークスは、スティーブン・スピルバーグとジェフリー・カッツェンバーグ、デビッド・ゲフィンが作ったハリウッドでは新参の映画会社だ。実はJ・カッツェンバーグは、かつて追い出されるようにしてディズニーを去った人物。退職金問題もこじれ、彼はディズニーに「オレを辞めさせたことを後悔させてやる」と思ってがんばってきた。だから『シュレック』がディズニーの『モンスターズ・インク』を破って受賞した時、彼の感激はひとしおだったに違いない。
冒頭にも述べたように、第74回アカデミー賞受賞式は、まさにハリウッドが大変革の時期を迎えていることを現したものとなった。
続編も作られることになった『シュレック』 (C)DreamWorks Pictures
■主な受賞者/作品リスト
作品賞 『ビューティフル・マインド』
監督賞 ロン・ハワード (『ビューティフル・マインド』)
主演男優賞 デンゼル・ワシントン (『トレーニング・デイ』)
主演女優賞 ハル・ベリー (『チョコレート』)
助演男優賞 ジム・ブロードベント (『アイリス』)
助演女優賞 ジェニファー・コネリー (『ビューティフル・マインド』)
長編アニメーション賞 『シュレック』
音楽賞 ハワード・ショア (『ロード・オブ・ザ・リング』)
主題歌賞 ランディ・ニューマン「If I Didn't Have You」(『モンスターズ・インク』)
音響賞 マイケル・ミンクラー、マイロン・ネッティンガ、クリス・ムンロ(『ブラック・ホーク・ダウン』)
編集賞 ピエトロ・スカリア (『ブラック・ホーク・ダウン』)
外国語映画賞 『NO MAN'S LAND』(ボスニア・ヘルツェゴビナ)監督:デニス・タノ
今年のポスター Illustration: Alex Ross (C) 2002 AMPAS, AMPAS:R,2002
HCC/GI
来週は、アカデミー賞サイドストーリーをご紹介します! お楽しみに。
文=シネマ・ナビゲーターはせがわいずみ(フィーチャープレス)
Text by Izumi Hasegawa/Cinema Navigator
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