TEXT BY 伊藤秀隆(監督/プロデュース/脚本)

 ハリウッドに映画留学してみる? 南カリフォルニア大学(USC)

 今回からLAレポートを担当する事になりました伊藤秀隆です。まずはご挨拶代わりに、僕が学んでいる南カリフォルニア大学の映画学科をご紹介しましょう。
 昨年、松田聖子の愛娘SAYAKAが主演したことでも話題になった、カンヌ映画祭短編部門グランプリ作品「おはぎ」。この作品は、南カリフォルニア大学(USC)の大学院生、デビッド・グリンフィールドが監督したものだ。彼以外にもUSCの学生が、在学中に国際的な映画祭で賞をとることは珍しくない。卒業後、ハリウッドにデビューし華々しい成功を収めるものも多い。
 アメリカに数多く存在する大学の映画学部の中で、ひときわ光を放つUSC。他の映画学部と何が違うのだろうか?その答えは、キャンパス内に足を踏み入れてみればすぐにわかる。ジョージ・ルーカス・ビルディング、スピルバーグ音楽ステージ、ロバート・ゼメキス・センター、そして今年アカデミー賞を受賞したロン・ハワード・スタジオ等々、ハリウッドで活躍する大監督の名を冠したビルが立ち並ぶ。これらの映画監督の多大な寄付により、他に類を見ないほどの最先端の設備が整っているのだ。
これがUSC映画学部のビル
 新しいのは設備だけではない。USCは全米のフィルム・スクールに先駆けて、設備のデジタル化を行った。これもUSCが技術的に世界の最先端を行く、ハリウッド映画界の流れを直接受けている大学であることの表れだ。

 授業内容もインディーズ色の強いニューヨーク大学とは対照的に、ハリウッド方式がメイン。それが一番顕著に表れているのが脚本のクラスだろう。万人に“うける”エンターテイメント映画の脚本作りを、徹底的に学生に叩きこむ。“ビジネス”としての映画作りに完全にフォーカスしているのだ。
 また、ユニバーサルやパラマウントといったメジャー・スタジオからのインターンシップの募集も多い。そしてもう一つ、USC映画学部の学生のみが出品できるファーストルックと呼ばれる映画祭の存在がある。ファーストルックの会場は、全米監督協会の本部で行われ、新しい才能を求めるスタジオやエージェントが集まる。まさに次世代のハリウッド映画を担う才能を育てるための大学だ。
 ハリウッドで成功を夢見る学生にとっては夢のような大学に思えるかもしれないが、反面かなり厳しくもある。まず、入学するのが難しい。競争率が半端ではない。噂によれば100倍ともいわれ、ある意味ハーバード大学やアイビーリーグの大学よりも入学するのは困難だ。『X-メン』(00)や『ユージュアル・サスぺクツ』('95)のブライアン・シンガー監督も3回の受験でやっと合格したが、製作学科ではなく評論学課だった。

 また、運良く入学出来たとしても年間3万ドル近い授業料を払い、その上映画製作にかかる費用も自分で出すのだから大変だ。もちろん、才能のある生徒は奨学金を貰える可能性がないわけではないが、これまた非常に狭き門。
壁にはジョージルーカスの名が
 そして、学生たちの最大の不満は、授業内で製作した作品の権利が全てUSCに帰属してしまうことだ。その徹底振りは、学期の初めに全員、契約書を書かされるほどである。『ハロウィン』('78)や『ヴァンパイア/最後の聖戦』('98)などで知られるジョン・カーペンター監督のように、このような学校側の態度に業を煮やし中退してしまう学生も多い。実際、「本当に才能のある奴は中退する」なんて言う噂まであるほどだ。確かに、いくらUSCを卒業したからといってハリウッドで職が得られる保証はどこにもない。それなら、学費を映画制作費に廻して、映画祭などで自分の才能を売り込むほうが早いという考えも一理ある。
 今をときめくスピルバーグ監督だって、USCに多大な寄付をしているから名誉卒業生という学士号をもらっているけれど、高校の成績が悪過ぎてUSCやUCLAに願書すら突っ返され、カリフォルニア州立大学にやむなく入学。在学中に撮った『アンブリン』('68)で認められ、そこから栄光のキャリアが始まったのだから、才能さえあればハリウッドで成功するには学歴は関係ないのかも知れない。

 けれど、留学生にとってはキャンパス内で『X-ファイル』を撮影していたり、クラスにケビン・コスナーやスピルバーグ、ゼメキスが登場したり、コンピュータールームで一生懸命編集をしていて、ふと伸びをしたらルーカスがいたなんて経験は確かに刺激的かもしれない。甘い夢と厳しい現実、USCはハリウッド映画界の縮図でもあるのだ。


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