TEXT BY 伊藤秀隆(監督/プロデュース/脚本)

 S・ソダ-バーグ監督『惑星ソラリス』ロケ現場潜入ルポ!

 ロサンゼルス、それは世界で最も多くの映画を製作し発信する都市である。ここに住んでいると映画を撮影している現場に出くわすことはしょっちゅうだ。しかし、ハリウッド特有の徹底した秘密主義により、その撮影が誰の出演する何の映画なのか知ることは極めて難しい。もちろん、ロケ現場の写真を撮ることなどもってのほかだ。
 だが、無理なことをあえてやりたくなるのが人の性と言うもの。ハリウッド映画界に諜報部員を潜ませ秘密裏にロケ情報を入手した。そして、その情報を頼りに来年公開予定の超大作映画のロケ現場に潜入したのだ。その映画とは、ジョージ・クルーニー主演『惑星ソラリス』。監督は、昨年2作品が同時に作品賞などにノミネートされ、見事『トラフィック』(00)でアカデミー監督賞を獲ったスティーヴン・ソダ-バーグだ。

 諜報部員の情報によれば、LAダウンタウンで大雨のシーンを撮影するという。しかし、辺りにはあまりに爽やかなカリフォルニアの青空が広がっている。
ダウンタウンが撮影現場に
 僕も小規模ながら映画製作をするので分かるのだが、いくらホースで雨を降らせたとしても、あまりに日の光が強いと説得力のある雨のシーンが撮影できない。そんな心配を胸に、現場に向かった。

 ロケが行われている通りの近くになると、通行止めになっている。僕は携帯から送られてくる部員からの情報を頼りに、ロケ現場の近くであろうと思われる通りに車を停め、徒歩でその場所に向かった。
人口豪雨の撮影現場
 『惑星ソラリス』といえば、1972年にソ連の名匠アンドレイ・タルコフスキー監督によって製作されたSFの傑作だ。SFといえば普通、既存の町並みは使用されないはずなのだが…。妙である。なぜ、SF映画をLAダウンタウンのど真ん中で撮影しようとしているのだろうか?そんな疑問を感じながら足早に現場に向かっていた。

 しかし、そこであることに気が付いたのだ。僕の周りにいる通行人の服装がおかしい。足を止め辺りを見回すと、その通りにいる80%くらいの人々の服が変なのである。変というか…、そう、未来服なのである。まるで『ブレードランナー』('82)などに登場するような人々。逆にTシャツ姿の僕の方が異様に思える。でも、なんだか興奮してきて小走りにクレーンの方に向かった。
 大雨の中を走り回る人々、妙な形の傘をさしながら黙々と歩く人々。情報によると今日、この現場に呼ばれているエキストラの数は300人ほどだという。その300人が全員未来服を着て1ブロック分の通りに集まっていて、おまけに雨と霧まで登場しているわけだから、いつものダウンタウンとはまるで別世界。あまりに不思議な世界が目の前に創り上げられていたので僕も思わずカメラをまわした。
S・ソダーバーグ監督
 すると、水煙の中に見覚えのあるダンディーな顔を発見した。あれは!?ジョージ・クルーニーである。僕は、もっとアップで彼の写真を撮ろうと近くに寄った。しかし、彼の登場は一瞬ですぐにどこかに消えてしまった。クルーニーを撮りそこないがっかりする。しかし、またしても見覚えのある顔発見。というか僕の場合、製作者のほうに興味があるのでこの人の顔のほうがよく知っているのだ。
 その人とは、監督のスティーヴン・ソダ-バ-グだ。彼は『トラフィック』でも他の名前で撮影監督もこなしているのだが、この作品でもそうなのか、カメラの後ろに座り真剣な表情でファインダーを覗いている。現在、ハリウッドで最も俳優に人気のある監督だそうだ。確かに、『オーシャンズ11』(01)のキャストを見ればそれも納得である。しかし、そんな大物監督なのに撮影が終了すると一人でテクテク歩いてどこかに消えていった。
 ソーダバーグ監督の後姿を見送っていた僕は、ふと自分の横にジョージ・クルーニーがいることに気が付いた。だが、何か様子が違う。さっきみたクルーニーは、護衛のような人間が何人かついていたが、目の前にいるクルーニーは一人ぽつんと立っている。しかも、心なしか映画の中の彼より太っているように見える。顔は確かにクルーニーなのだがなにかかっこ悪い。恐る恐る話かけてみると、なんとジョージ・クルーニーのスタンドイン。

 つまり、ピント合わせなどの準備のときにスターの代わりにカメラの前に立つ役者なのだ。それにしてもクルーニーに似ている。よーく写真を見てください、違いがわかるかな~。
G・クルーニーの偽者
 それでは、来年公開予定の『惑星ソラリス』はどんな映画になるのかお楽しみに!


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