TEXT BY フィーチャープレス 岩下慶一

 ハリウッドで活躍する日本人、長土居政史監督インタビュー

 eigafan.comの取材で米国の映画業界を徘徊するようになってから、もう3年近くにもなるが、日本人の関係者に出会う機会はびっくりするほど少ない。過去に紹介した俳優の加藤雅也さんや、工藤夕貴さんが頑張っているが、監督やプロデューサーとなると目立った人物は殆どいない。以前紹介したマックス霧島さん位か。
 今回紹介するのは「ハリウッド少数派」の日本人の中で気を吐いている長土居政史監督。日本ではまだ名前を知られていないが、ハリウッドのインディペンデント映画界では知る人ぞ知る存在だ。

1963年東京に生まれ1983年渡米。1994年にUCLA映画学科大学院を卒業後、ドキュメンタリー、MTV等を製作。先頃、自ら脚本も担当した映画『Deception』を完成させた。今秋、全米でビデオとDVDが発売される。日本で作品が公開されれば一気に注目される筈だが、今回は日本のメディアに先駆けeigafan.comが独占インタビューする。
素顔は非常に気さくな長土居監督
eigafan.com(以下E):まず、新作完成おめでとうございます。

長土居政史監督(以下NM):いやどうも。ほんとに大変だったけれど終わって一息ついてます。後は映画が当たればいいんだけどね(笑)

E:どんなストーリーの映画なんですか?

NM:一言で言えばサスペンスなんだけど、プレイボーイの男に美女2人の三角関係、それに犯罪が絡んだサイコドラマです。説明するのは難しいけれど、どんでん返しの連続の脚本で、ストーリーには自信がありますね。
E:公開予定は?

NM:米国では今年の秋にビデオとDVDで発売されます。そのほか12カ国で公開が決まってます。

長土居監督は今年38歳。人生の大半をアメリカで過ごしている計算になる。

E:映画監督になるまでの道のりを説明して頂けますか?

NM:映画は子供の頃から好きだったんだけれど、ちょうど20歳の時にアメリカに留学して、大学を卒業してから一度ロサンゼルスで就職したんですが、どうしても映画がやりたくて、UCLAの映画学科大学院に入り直したんです。それが13年前の話。
フレームをチェックする監督
E:『Deception』の製作はどんな風にはじまったんですか?

NM:まず制作費集めからはじまりました。これが一番苦労したかな?低予算といっても、おいそれとは集まらないですからね、50万ドルも。まず脚本を書いて、それを持って売り込みに行くわけ。非常に時間がかかるしストレスもありますね。

インディペンデント映画といっても制作費は50万ドル(約6千万円)、日本だったら立派な一戸建て住宅が買える金額なのだが、10億円位でも低予算とされてしまうハリウッド映画の基準からすると、低予算映画ということになってしまう。恐るべしハリウッド。
E:制作費はすぐに集まりました?

NM:集まる訳ないでしょ!もう、話をして断られての連続ですよ。脚本自体は随分前から暖めていたネタなのだけれど、それを最終的な形に練り直すまで1年間位かかったかな?その脚本と企画書を持って色んな所を廻る訳です。制作費を出してくれそうな会社とかプロデューサーとか。

E:セールスマンみたいなもんですね。
『Deception 』の1シーン
NM:そうそう、セールスマン。この映画は非常に有望ですよ、みたいな事を、もう一生懸命説明するわけ。如何に自分がこの映画に賭けているか、みたいな事を延々と。そういう意味では監督も演技がうまくないと(笑)。

E:で、やっとお金が集まって製作に入る訳ですね。

NM:そう、ここからがまた大変でね。

E:スタッフは何人くらい?

NM:全部で60人位かな?現場では予期しないトラブルとかあったりしてほんとに大変ですよ。
カメラマン、照明、AD、俳優、すべてのスタッフをコントロールしなければいけない。当然、強力なリーダーシップが必要になってくる。自信なさげな監督の下では、スタッフもやる気を失ってしまう。製作現場での長土居監督は、流暢な英語でアメリカ人スタッフや俳優に指示を飛ばす。

E:俳優やスタッフとのコミュニケーションは大変では?
NM:もちろん大変な時もあるけれど、逆にどんどん意見を言わせるのが僕のやり方。セリフや演技の部分でも俳優の意見を聞いて取り入れていくんですよ。

製作現場にうかがった際、主役の俳優と長土居監督、そしてプロデューサーが入り乱れて、演技についてのかなり激しいディスカッションが行われていた。一人一人の話を辛抱強く聞く長土居監督。しかし、最後に毅然と、「これで行く!」と決めたら、有無を言わせずスタッフを黙らせる。う~ん、カッコいい。

E:現場を見て思ったけれど、結構大変な仕事ですねえ。
スタッフとの念入りな打ち合わせ
NM:映画監督って、脚本を書いたり、撮影したりが仕事と思われているけれど、それ以外にいろんな要素が必要なんですよ。お金集めの為にセールスのセンスも必要だし、スタッフや俳優とのコミュニケーション能力とかね。気難しい女優の機嫌を取って、良い所を引出さなきゃならないし、こうと決めたら皆を従わせる強さも必要だしね。

E:人間関係が大事なんですね。

NM:そうですね。あと決断力。一日撮影が延びると僕らのような小さなプロダクションでも1万ドル(約120万円)が飛んでいってしまうんです。だからタイムマネージメントの能力も必要ですね。
E:アメリカで映画を撮っている日本人は、学生映画とかを除くと殆どいませんよね。ハリウッドの映画監督を目指している日本人は多い筈なんですが。その辺は何故だと思いますか?

NM:う~ん、僕の経験から言うと、繰り返しになるけれど、映画を作る技術、つまり脚本とか撮影とかは当然必要な訳ですが、それプラス別のセンスがないと駄目なんですよ。アメリカ人の中でやって行くわけだから、彼らの心を掴む話術とか、交渉術とかね。ちょっと話してみて相手に、こいつ面白いな、と思わせるような物を持っていないと、スタッフを動かすのもお金を集めるのも難しいですね。

E:う~ん、日本人には難しそうですね。いつもこの連載をやってくれている伊藤君もUSCの映画学科の学生なのだけれど、そういうアメリカ映画を目指す日本人に何かアドバイスってありますか?
『Deception』のポスター
NM:まず、映画作りに必要な知識は当然備えた上で、人の心を掴むキャラクターを持つ事が大切ですね。相手に興味を持ってもらえるような人間であること。その為には政治とか、音楽とか、とにかく映画以外の事全般に興味を持っていなければならないし、相手を楽しませたり説得したりするだけの話術が必要ですよね。売り込みのうまさ、というのは一番大事ですよ。どんなにスゴイ映画を作る技術があっても自分をアピールする力がないと話がはじまりません。

長土居監督はすでに次回作の脚本を書き始めているという。「Deception」の日本での配給も現在交渉中。マサシ・ナガドイ、この名前を覚えておいて欲しい。日本で名前が知られた時、一番最初に紹介したのはeigafan.comだという事も。


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