TEXT BY 深沢コウスケ 取材協力:伊藤秀隆 Planet Kids Entertainment

 映画留学生必読!初めてのプロデューサー日記 後編

さてさて、今回も伊藤監督が音入れ作業などなどで過労死寸前のため、代わりまして僕、コウスケが映画制作初体験ルポ後編をお届けする。

 ところで、皆さん映画の音って一つ一つ…、例えば、足音から服がこすれる音まで後から入れるって知っていました?
 映画の音は、現場で高性能のマイクを使って録音するものだと思っている人は多い。ところが、実際に現場で録る音は俳優のセリフのみなのだ。

 日本映画の場合、予算の関係上、セリフ以外の音も撮影現場で録音したものを使う事もあるらしいが、ハリウッド映画の場合は完全に後から音を作って画面に合わせていく。(これを「フォーリー」と言う)実際、映画の中の俳優と同じ事をして「動きの音を作り出す」フォーリー専門の役者もいるのだから面白い。それにしても、この作業本当に気が遠くなる。伊藤監督をはじめスタッフの皆、後一息だ。がんばって!
 映画制作というのものは、「どんなに念入りに準備しても必ずトラブルが起こる」というのは前回もお話したが、中でもキツイのは役者のドタキャンである。今回も撮影の前日、主演女優が身内の体調不良を理由に降板するという事態が起きた。こちらも鬼ではないので「祖母の様態が悪いのでサンフランシスコに行く」などと言われてはどうしようもない。しかし、数日後LAで制作されているメジャー映画のオーディション会場で彼女を目撃したという情報が入った。
 ハリウッドで役者を目指している人たちは、毎日自分でも覚えきれない量のオーディションに応募している。だから、いくら僕らが撮影のだいぶ前から出演をオファーしていても、突然割の良い仕事が入ってしまうこともある。そうすると、いくら僕らが必死で準備していようと今回のケースのように、あっさり降板されてしまうのである。
 しかし、このような事態が起こるのは、超低予算映画に限った事ではない。これはメジャー映画で働くキャスティング・ディレクターから聞いた話だが、大作映画でもエキストラの人たちがキャンセルしたい時に使う理由でもっとも多いのが「祖父、祖母の様態が悪い」だという。

 もちろん、どんなに良い条件の映画の仕事が入ろうとも最初にオファーした映画を優先してくれる役者も少なくは無い。だから、オーディションの時は演技やキャラクターのイメージが合っているということの他に人間性をも見抜かなければならないのだ。いやはや、今回の僕らの超低予算映画ですら700人を超える応募があったのだから、メジャー映画でのキャスティングはかなり大変そうだ。
 今回は他の俳優がキャラに適任の代役を紹介してくれたので、何とか事なきを得たが冷や汗物だった。この他、撮影現場で多いトラブルは、手違いによって取った筈の撮影許可がおりていないなどがある。特に、サンタモニカやLAダウンタウンは厳しく、酷いときには警察によって撮影したビデオテープやフィルムを没収される事もある。これは映画のみではなく、写真撮影においても三脚を立てる場合は許可をとらなければいけないので写真撮影が趣味の読者の方はLAでの撮影の際は十分気を付ける事をお勧めする。
 こんなわけで、一口にプロデューサーといっても資金を集める事から始まって、ラインプロデューサー(現場での指揮)、宣伝、公開までありとあらゆる仕事をこなさなければならない。確かにアメリカの大学にある映画学部に入れば資金集めのための企画書の書き方や、予算の立て方、撮影許可の取り方、公開形態など勉強できる事も多々ある。

 しかし、今回の映画制作に参加して一番感じたのは、プロデューサーに一番必要な能力は「不測の事態をいかに素早く処理できるか」という事だろう。これは、どんなに机の上で勉強しても身につく事ではなく「経験値」によってのみ学ぶ事ができることだ。
 これから、映画制作を勉強しようと思って渡米する皆さん、学校で教えてもらうことだけに頼っていては、映画は作れないということを肝に銘じておいて下さい。僕も、今やっと映画制作の厳しさを実感してきたところ。これから、どうなるか分かりませんが突き進むのみです。


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