TEXT BY フィーチャープレス 岩下慶一

 映画のレーティング。誰でも好きな映画を観られる日本は結構幸せかも?

 ちょっとクイズを出しましょう。『バニラ・スカイ』(01)、『アリ』(01)、『チョコレート』(01)、『グラディエーター』(00)、『マトリックス』(99)、『アメリカン・ビューティー』('99)『プライベート・ライアン』('98)これらに共通するものは何か?
 よ~く考えて見てください。アクション映画?でも『アメリカン・ビューティー』と『チョコレート』はアクションではありません。男性が好きそうな映画?う~ん、でも『チョコレート』は女性にも結構受けている。『アメリカン・ビューティー』も特に男性向けという訳ではないし…。では次の映画はどうでしょう?

 『メン・イン・ブラック2』(02)『I am Sam/アイ・アム・サム』(02)『ロード・オブ・ザ・リング』(01)『ラッシュ・アワー2』(01)。

 最初のグループは結構大人向けが多いけれど、次のは子供と一緒に楽しめる映画が多いかな?そう思ったあなたはなかなかスルドイ。
免許証提示を求めるポスター。
 この2つのグループは、アメリカの映画のレーティング、最初の映画は内容の過激さの評価で「R」(子供には相応しくないもの、17歳以下は親の同伴が必要)とされたもの。次の映画はちょっと際どいところもあるぞ、という評価「PG-13」(13歳以下には観せない方が良いとされたもの)なのでした。最初のグループは確かにちょっと際どい暴力描写や性的シーンがあるものばかり。
 このレーティング、アメリカでは結構厳格に守られている。R認定の映画を上映する映画館の窓口では、親が一緒でない17歳以下の子供には絶対チケットは売ってくれない。若く見える日本人は、免許証みせて、なんて聞かれる事もしばしば。そう考えると、アメリカの高校生は結構カワイソウだ。彼女と一緒に『バニラ・スカイ』を見に行けないのだから。かといっておかあさんと一緒に映画を見に行く年でもないし。トホホ。で、アメリカの映画館のチケット売り場に並んでいると、時々高校生位の子に声をかけられる事がある。

「あの~すいません、僕らの分のチケットも買ってくれませんかあ」かわいそうなので僕は買ってあげる事にしているが、厳密に言えば法律違反。まあ逮捕される事もないだろうけど。
 レーティングについてもう少し細かく説明すると、

R…暴力や性描写、悪い言葉使い等があり、17歳以下は親の同伴が必要。
PG-13…13歳以下には好ましくない映画。映画館によっては入場させないところもある。
PG…子供に観せても殆ど問題ないが、多少良くない描写もある。
G…だれに観せてもまったく問題なし。

 このほかに、例え親同伴でも17歳以下お断りのNC-17というのもあるが、これはポルノ映画の類。興味のある方はhttp://www.filmratings.com/を見て欲しい。
レーティングのマーク。
上からG、PG、PG-13、R、NC-17
 米国の映画は必ずこのどれかに指定される。ちなみに今年と去年のヒット作品でPG-13にレーティングされた映画は『メン・イン・ブラック2』(暴力シーンと汚い言葉)、『ジュラシック・パークIII』(01)(破壊的シーン)『ラッシュ・アワー2』(01)(暴力シーン)、まあはっきりいって殆どの映画が何らかのイチャモンをつけられている。『ロード・オブ・ザ・リング』でさえ、戦闘シーンあり、という事でPG-13指定なのだ。
 ちなみに『ハリー・ポッターと賢者の石』(01)はPG。恐怖シーンと一部に良くない言葉遣いあり、というのがその理由。で、まったく誰が見ても問題がないG指定はもう探すのが困難で、最近のメジャー映画では『トイ・ストーリー2』(02)位のもの。キリスト教国であるアメリカでは、過激な映画がたくさん作られる一方で、子供に対するプロテクションの強さは日本の比ではない。映画の中で“FUCK”というセリフが一箇所でも出てきたらそれは即座にR指定になってしまう。『アリ』がRになったのもそれが理由だ。
 さて、このように厳しい映画レーティング、アメリカでは役者や映画製作者にとってとても大事な問題だ。映画がR指定になってしまうと、それは17歳以下のマーケットを失う事を意味する。子供だって大事なお客さん、17歳以下が見に来てくれないと興行収入は減ってしまう。どんなに面白い映画でも、大当たりをとるのが難しくなってしまう。それが証拠に今年と去年の全米興行収入ベスト5の映画でR指定は一つもない。かくして、映画製作者はR指定を避けるようになり、大人テイストの映画が少なくなる。『チョコレート』みたいな作品を作るのは、製作者にとって大きなリスクになってしまうのだ。
劇場のチケット売り場。ここで子供はシャットアウトされてしまう。
 レーティングが表現の自由を侵害しているとして反発するハリウッドの映画人も多い。“FUCK”という言葉は日常でも結構耳にするし、若者の映画でこれが出てこないと逆に不自然になってしまうのに、R指定を避けるためにはそういうセリフは入れられない。結果、あんまり自然なセリフ廻しではなくなってしまう。

 今週の結論。高校の頃、学校をサボって映画を見に行っていた僕としては、親と一緒に『マトリックス』を観に行くなんてぞっとしない。成人映画以外はどんな映画でも楽しめる日本は結構いい国だなあ、チャンチャン。


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