TEXT BY 伊藤秀隆(監督/プロデュース/脚本)

 ハリウッドで役者になるには?日本人もハリウッドのスクリーンで大活躍!

 僕が映画監督を目指していることもあって、このコラムでも製作者側を志す人々をご紹介する事が多い。しかし、ハリウッドにやってくるのはなにも製作者を目指す人間だけではない。俳優になる事を夢見てハリウッドにやってくる者も多い。
 実際、ハリウッドのレストランに行ってみると、ウエイター、ウエイトレスの多くは役者志望である。昼は数え切れないほどのオーディションを受け、夜はバイトをして生活費を稼ぐ。役者志望の人達の多くがレストランでの仕事をするのは、そこに「出会い」つまり「チャンス」が生まれる可能性があるからなのだ。

 役者志望の人々がよく読む「Back Stage West」という新聞がある。この新聞のオーディション告知には、メジャー・スタジオによる大作映画から、お金の払われないほどの低予算インディペンデント映画や学生映画まであらゆる映画のための役者募集の告知が山ほど載せられている。僕自身も何度か役者募集の告知を載せた事がある。もちろん、「賃金は払えません」という注意書きも一緒にだ。
ユミさんのオーディション用写真。ハリウッドで役者を目指す人達はこのような写真を用意するのである。
 これは名も無い監督の作品にボランティアとして参加して欲しいということなのだが、1週間で500通を超える写真と履歴が僕のもとに送られてきた。ちなみにその時、僕が募集したのは5人分の役である。つまり、合格率は100分の1。僕が制作した映画さえ、そんな競争率である。大作映画での役を得るのは、それこそ宝くじにあたるようなもの。まったくの素人がオーディションで普通に合格するなんていうことはまずないだろう。
 まずは学生映画や、インディーズ映画で一つでも多くのクレジットを得て、次にエージェントを探して、そこからのオーディション情報をもらい「ユニオン映画」(組合の基準のもとで制作されている商業映画)での経験を積む。その上で、SAG(映画俳優組合)に加入する事を許され、SAGとしてオーディションを受け経験を積む。極稀に、工藤夕貴さんが『ヒマラヤ杉に降る雪』に出演したようにのように日本や海外の作品で活躍していることが認められ、一気主役の座を射止めることもあるが、それは例外中の例外。
僕の新作ROOMMATEの1シーン。ユミさんのサイコ的表情はさすが女優という感じ。怖い…
 SAG俳優とそうでない俳優ではエキストラをやったとしても賃金や食事などあらゆる面で差が生じてくる。SAGに加入している役者はかなり厳しい組合の規則に守られているのでかなり待遇が良い。もちろん、その弊害もありエキストラなどはSAGに加入していない役者のほうが仕事を得やすいという現実もある。ましてや日本人ともなると、役自体が少ないので仕事を取るのも大変だ。
 しかし、そんな中がんばっている日本人俳優もたくさんいる。Yumi Mizuiさんは、ビリー・ボブ・ソートンやミック・ジャガーなど数多くのミュージック・クリップやCMに出演してきた。最近では『アメリカン・モウスト・ウォンテッド(アメリカのお尋ね者)』という、指名手配中の殺人犯が起こした事件をドラマ仕立てで再現するという超人気番組で主役を務めるなど活躍している。

 また、Masi Okaさんは現在公開中の『オースティン・パワーズ ゴールドメンバー』でゴジラを発見する役で出演している。Masiさんはこの他にもアメリカの人気TV番組『スクラブズ』などに出演するなど日系俳優の中では一際目立った活躍ぶりを見せている。
Masi Okaさん:オースティンパワーズではメガネをかけて登場している。さー見つけられるか?
 Masiさんは役者をする傍ら、ジョージ・ルーカス率いるILMに在籍し『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』や『パーフェクト ストーム』のCGを担当している。最近では、「日系人の役は自分達で作らねば!」と自ら脚本を書き、インディペンデント映画の制作にも挑戦しようとしているようだ。夢は「技術分野のオスカーとクリエイティブ部門のオスカーを獲ること」と語る。自分達のチャンスは自分達で切り開き、作り出そうとする気合の入れ方は僕もとても共感できる。

 このように、ハリウッドには自分達の夢をどうにか実現しようと必死でがんばっている人々がたくさんいる。夢の世界を創造するハリウッド。そのパワーの源は夢を持った前向きな人々の熱い思いなのかもしれない。
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