TEXT BY 伊藤秀隆(監督/プロデュース/脚本)

 ハリウッドで働く人々のギャラ!?
 日本映画とハリウッド映画、こんなに違う!

 最近、日本にいる人達から聞く話しは不景気なものばかり。日本の映画界も例外ではなく、困窮に喘いでいる。僕の知り合いのカメラマンも「制作費の低下は末期状態。クオリティーを保つのが精一杯で想像的なことは何一つできない」と語る。
 実際、日本映画の場合誰もが知っているような俳優が出演しているような長編作品でも、その制作費は3千万円から5千万円とアメリカの学生映画程度。かなり大々的に宣伝されている映画ですら1億円から2億円ほど。これでやっとアメリカのインディペンデント映画程度の制作費である。

 北野武監督作品『BROTHER』(00)はLAで撮影されたため、本来ならば映画製作者組合の規定によりメインスタッフは現地の人間を起用しなければならないのだが、制作費がインディペンデント映画なみということで、特例により日本からメインスタッフを連れてくる事が認められたのだ。ちなみに、『BROTHER』の制作費は10億円と言われている。
俳優組合(SAG)の契約書。かなり小さい役でも映画が当たれば配当金がもらえる。
 日本のゴールデンタイムに放送されている50分ほどのTVドラマの制作費が5千万円から7千万円という事を考えて欲しい。映画はテレビ番組の約2倍の長さで、フィルム代がビデオの10倍するフィルムを使用して撮影するのだ。普通に考えたら5億円でも足りないくらいだ。日本において映画の製作がいかに低予算で行われているかが分かると思う。

 ではハリウッドではどうなのか?『タイタニック』('97)の制作費が200億円、日本映画とは桁が違う。現在、全米で大ヒット中の『サイン』では、メル・ギブソンの出演料だけで25億円!日本映画の制作費の5倍以上だ。ちなみに、来年公開の『T3』ではアーノルド・シュワルツネッガーに30億円を超える出演料が支払われたという情報が流れている。
 ハリウッドスターの法外とも言えるギャラに比べ、日本映画での俳優のギャラはTVドラマの10分の1程らしい。だから、浅野忠信や田中麗奈など映画にこだわっている俳優はCMなどに出演して、金を稼ぐ事になる。(ちなみにハリウッドスターは絶対に国内CMには出演しない)日本の俳優はギャラの面では米国と比較にならない程安いのだ。

 逆にハリウッドでは、エキストラをやっているだけでも生活出来てしまうのだから凄い。画面に5秒間写っただけで、何千ドルというギャラが支払われる。エキストラ程度の出演しかしていない俳優でも十分生活できるどころか、かなりリッチな生活を送っている人々もいる。
映画はアメリカ人にとって娯楽の基本。1年に見る本数は日本人の5倍。
 ハリウッドで儲けているのは俳優だけではない。『サイン』のM・ナイト・シャマラン監督は脚本料だけで10億円もらっているようだ。また、最近『リング』がハリウッドでリメイクされたのを皮切りに『ドラゴンボール』など日本からリメイク化権が買われたが、その値段も手付金だけで数千万円。映画として製作するかどうか分からない段階でも数千万円支払ってしまうのがハリウッドなのだ。逆に言えば、これだけの金額を払っても制作費を回収し、その上利益も出す事ができるという事。世界を相手に商売できるハリウッド映画と、まだまだ国内でしか勝負できない日本映画の違いだろう。
 日本映画もハリウッド並みとは言わないまでも、香港映画くらいのレベルで世界をマーケットに勝負できるような企画で製作して欲しいものだと思う。香港映画の場合はあまりに国内のマーケットが狭いため、必然的に中国、日本を含むアジア、アメリカなどへマーケットを広げなければならなかった。こうした必然性が、ジョン・ウーやアン・リーのような世界に通用するクリエイターを生んだのだ。
 確かに貧窮の中から生まれるアートもある。しかし映画は純粋なアートばかりではない。莫大な制作費をかければ良いという訳ではないが、ある程度の制作費をかけなければ良質のエンターテイメント映画を作る事はできない。そして、そういった映画を製作する場合、まずクリエイターが経済的な心配をせずに製作できる環境を作らなければ才能は育たないではないだろうか?

 今回は日本映画に対して批判的なことばかり書いてしまったが、現在の日本には世界に通用する素晴らしい才能が登場してきている。いつまでも、黒澤明の遺産を大事にしているのではなく、新たなる黒澤を育てるくらいの意気込みで、これらの才能を開拓して欲しい。そのためにも日本映画界は世界の市場を見越した「企画」と言う面から考え直していくべきだと思う。
M・ナイト・シャマラン監督は脚本料だけで10億円。
『サイン』のポスター。
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