TEXT BY 伊藤秀隆(監督/プロデュース/脚本)

 ロングビーチ・インターナショナル・フィルムフェスティバル・レポート

 最近、世界中のあらゆる都市、いや街レベルで映画祭を開催し始めている。映画祭を切っ掛けに街を活気付かせようというのだろう。映画祭に訪れた映画製作者たちがその街を気に入って、次の作品でロケを行ったと言うのもよく聞く話だ。読者の皆さんも映画に登場したレストランやホテルなどを訪れてみたいと思った経験はあると思うが、有名な映画にその街が登場すると、それだけで観光名所となる可能性も高い。映画祭は町興しにピッタリのイベントなのだ。
 一口に映画祭といってもベルリン映画祭、カンヌ映画祭、ヴェネチア映画祭の歴史ある3大映画祭から、新人監督の登竜門と言われるサンダンス映画祭、異色映画が発掘されるロカルノ映画祭など、特色は様々だ。新しく開催される映画祭は、これらの有名映画祭に負けない特色を出していかなければならない。近年では釜山映画祭(プサン映画祭)が、まだ歴史が浅いにも関わらず新しいアジア映画発掘の場として世界から注目を集めている。釜山映画祭の勝因は、なんといっても韓国政府による全面的なバックアップによるものだ。

 そして、世界でもっとも多くの映画祭が開催される街、ロサンゼルスでも、新規参入しようとしている映画祭がある。それが、今年で第3回を向かえるロングビーチフィルムフェスティバルだ。
LB国際映画祭は
多くのボランティアによって運営されている
 ロングビーチと言えばサーフィンを連想するが、映画ファンには昨年スティーブン・スピルバーグ監督が卒業したカリフォルニア州立大学ロングビーチ校(CSULB)がある場所といったほうが分かりやすいかもしれない。

 海に面していて、釣り舟から貿易用の大型貨物船まであらゆる船が出入りするアメリカ有数の港町だが、近年は工業化も急激に進み、夜になっても巨大な工場が赤々とした光と煙を噴出し、映画に登場する未来都市さながらの様相をかもし出している。僕としては、フリーウエイから見えるブレードランナーを髣髴させるそんな工業の街に興奮すら覚えるのだが、街としてはやはり海と芸術を前面にだしたイメージを作り上げたいようだ。
果たしてどんな映画祭になっていくのだろうか?
 こうして企画されたのが、ロングビーチのシンボルでもあり、あのタイタニック号を超える大きさを持つ豪華旅客船クイーンメリーでの映画祭だった。1967年まで航海していたクイーンメリー号は一度に乗客、乗員合わせて16000人を運ぶ事の出来るというほどの大きさだ。現在はホテル兼博物館として通常は運営しているが、映画祭を行うには十分な規模と話題性を兼ね備えている。

 映画祭において上映場所というのは強いインパクトを持たせる上で重要な要素だ。例えばロカルノ映画祭における7000人収容できる野外劇場などは、そこで公開される映画は欧州で必ずブレイクするというジンクスを作り出した。ロングビーチフィルムフェスティバルは今後どんな伝説を生み出していくのだろうか。
巨大なクイーンメリー号。
ハロウィンにはお化け屋敷になる。
 プログラムに目を移すと、オープニングでマーク・トンプソン主演の『Mother Ghost』 (02)が上映された。オープニング作品と言うのはその映画祭の方向性を見るうえで重要なのだ。この映画は主演にトンプソンという格別知名度があるわけではないが、脇役としては着実に実力を付けてきている俳優を起用している他、アカデミー賞にノミネートされたこともあるチャールズ・ダーリングなど演技派が脇を固めスーパー16ミリフイルムで撮影されたというインディペンデント色の強い作品だ。
 短編映画部門では近年の流行にもれずフルCGの作品が多く、この手の作品が世界的に注目されているのが分かる。ただ、インターナショナル映画祭と謳っている割には、ほとんどの作品がアメリカで製作されていたと言うのが気になる。特別討論会では「デジタルビデオかフィルムか!?」というトピックで開催され熱く盛り上がっていた。しかし、印象的にはイマイチ平凡な題材ではなかっただろうか?

 全体的にまだまだインパクトが弱く改善の余地は大いにあるように感じたが、クイーンメリー号での開催と言う大きな武器をもっと利用すれば、将来的に注目を集める映画祭になると思う。インディーズ系を応援する映画祭として世界中のまだ日の目を見ぬ才能を早く発掘できるような映画祭に成長してくれる事を願いたい。
地元の人が多かったが、いつの日か世界中から
観客があつまるだろう…
<<戻る


東宝東和株式会社