TEXT BY 伊藤秀隆(監督/プロデュース/脚本)
|
|
『千と千尋の神隠し/Spirited Away』がアメリカでついに公開!
|
9月20日全米26館で『千と千尋の神隠し』(01)が公開された。アメリカでは『Spirited Away』のタイトルになっている。公開に先駆けて行われたプレビューには監督の宮崎駿が出席。矢継ぎ早に繰り出される記者たちの質問に通訳を通してゆっくりと答えていた。
|
|
|
今回のアメリカでの公開に対しほとんどの関係者が心配しているのは「分かりにくいのではないか?」「物語が複雑すぎるのではないか?」ということだが、質疑の中でも「神道など日本の文化に根付いた物語内容ですが、アメリカ人に理解する事ができると思いますか?」と言うようなものがあった。
これに対し宮崎監督は「現在の日本の若者達もそういうことについて理解している人たちはほとんどいない」と答えた。 |
|
|
|
宮崎監督らしかったのは、記者の「アカデミー賞に長編アニメーション部門ができたのですが、どう思われますか?」の質問に対し「興味はない」とそっけなく答えた。しかし、次の質問がでる寸前になり宮崎監督は「もちろん、勝つつもり」と答えた。最初の一言が本音と言うところだろうか…。
宮崎作品と言えば『もののけ姫』('97) あたりから日本文化を強く意識しているようだ。宮崎監督からしてみれば、海外で評価されることよりも、日本の伝統的な文化の衰退を堰き止める事に心血を注いでいるのだろう。かつてはハリウッドからも宮崎監督に様々なアプローチをしたようだが、スピルバーグ監督が「彼は日本から無理に連れ出す作家ではない。彼は日本にいるから彼なのだ。彼をアメリカに来させても意味はない」と発言して事態をおさめたという話しがある。
翻訳、吹き替えのほうも今まで英語に吹き替え、日本アニメの中では群を抜く出来と評されている。声優は千尋の役を今年『リロ&スティッチー』(02)のDaveigh Chaseが担当。『リロ&スティッチー』の時よりも良くなったという批評もある。ただ、内容があまりに日本的なだけに「何かが抜け落ちている」と感じないでもない。 |
|
|
アメリカではすでに『となりのトトロ』('88)『魔女の宅急便』('89)がビデオで発売されたり『もののけ姫』が劇場で公開されたりして根強い人気はある。またアングラではジブリ作品が1枚に2作づつ収録された海賊版DVDが1枚$10ほどで発売され、関係者を悩ませるほどアメリカ社会に浸透してきている。
しかし、かつてのポケモンブームと比べると、その内容の高尚さゆえに一般的な人気と言うレベルには達していない。今回配給を担当するのがディズニーということもあり、宣伝側もかなり熱を入れているようなのだが…。 |
|
|
|
|
僕も映画館で偶然『Spirited Away(千と千尋の神隠し)』のCMを観たが、その迫力は日本のCM以上だったように思う。激しいアクションシーンを中心に並べ、最後にHAYAO MIYAZAKIと轟音とともに大スクリーンに映し出されると観客から拍手と歓声が聞こえた。日本人として、とても誇りに思える瞬間だ。学校内でも自分の宿題である映画作品に宮崎アニメの音楽を使用する友人なども出現し、公開を待ちきれない様子だった。ここまでアメリカで支持される映画監督は黒澤明以来だろう。
現在のところ26館という小規模な公開だが批評家達のコメントや一般観客の熱狂ぶりを見るとこれから勢いをつけて拡大していく事は必死だと思う。果たして今回の『Spirited Away(千と千尋の神隠し)』がどこまでアメリカで観客を動員できるか楽しみである。 |
|
|
|
<<戻る
|