TEXT BY 伊藤秀隆(監督/プロデュース/脚本)

 スピルバーグVSスコセッシ/ハリウッド2大監督クリスマスに激突?

 年末は映画業界にとっても掻き入れ時。現在、クリスマスの映画大商戦に向けて各社調整を進めているところだが、ここで大きな問題が浮上した。ドリームワークス配給スティーブン・スピルバーグ監督のアクション・コメディー『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』とミラマックス配給マーティン・スコセッシ監督のギャング映画『ギャング・オブ・ニューヨーク』の公開予定日が重なりそうなのだ。
 クリスマスシーズンと言えば大作の激突はいつもの事。なぜ今回に限り、大きな問題になっているのか? 実はこの2作品、なんと主演が同じなのだ。2作とも、『タイタニック』('97)で日本でも一気にファンを獲得したレオナルド・ディカプリオが主演なのである。同じスターの出演している作品を同じ日に公開するとなるなれば、ハリウッドが誇る2大監督同士の一騎打ちともいえる事態になる。

 スピルバーグとスコセッシと言えば1970年代、まだ2人が有名になる前からお互いの存在を認め合ったという仲だ。その証としてスピルバーグは、スコセッシが予定していた『シンドラーのリスト』('93)を譲り受けて監督、スコセッシが監督したデ・ニーロ主演のサスペンス映画『ケープ・フィアー』('91)で、お互いの収入のポイントを交換している。結果としては、スピルバーグは『シンドラーのリスト』でアカデミー賞を受賞。両作品とも爆発的なヒットを記録し、お互い儲けたという。
『ギャング・オブ・ニューヨーク』ポスター:今回のディカプリオはワイルドだ!
 しかし、今回の事態により2大監督の友情にヒビが入ってしまうのではないかと噂するメディアは多い。僕個人は、スコセッシ監督の代理人が言うように「公開日に関しては監督にとって、そんなに意味はない」という言葉に賛成だ。なぜなら、公開日が重なろうと作品が良ければかならずヒットに繋がるからだ。公開日だけで儲けようというのは、スターの名前や宣伝にのみ頼って興行する作品の場合だ。この2大監督に、そういう事は関係ないだろう。

 ただ、配給会社としては監督同士の面子の問題以外にも、ディカプリオ・ファンから得る興行収入が減ってしまうというマイナスがあるので、バッティングは必ず阻止するだろう。『ギャング・オブ・ニューヨーク』の制作費は100億円とも言われ、ミラマックスの手がけた作品のなかでは最高額の映画である。ミラマックスとしては絶対外せない。関係者の間ではすでに『ギャング・オブ・ニューヨーク』の公開日の変更が決定しているという話しも出ている。
『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』
ポスター:さわやかな色彩は、一見するとスピルバーグ映画ではなさそう…
 しかし、万が一この激突が実現すれば、ディカプリオ・ファンにとってはとても嬉しいクリスマスになるだろう。このマーティン・スコセッシ監督の『ギャング・オブ・ニューヨーク』という作品は、本当は2001年12月に公開の予定だったにも関わらず、色々問題があって延びに延び、ディカプリオ・ファンを何度もがっかりさせてきた。待望の作品だけにこれ以上の公開延期はやめて欲しいものである。
『ギャング・オブ・ニューヨーク』ポスター
 両作品とも、スゴイのは監督だけではない。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン
』はディカプリオの共演としてトム・ハンクスが出ているし、『ギャング・オブ・ニューヨーク』のほうはキャメロン・ディアスとダニエル・デイ・ルイスの出演。まさに夢のスター共演と言ったところ。

 果たして、このクリスマスの映画商戦の決着は? 10月の今からもうすでに「映画戦線に異常あり」である。
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