TEXT BY 伊藤秀隆(監督/プロデュース/脚本)

 ハリウッド版『ザ・リング』が全米を震撼!

 全米ナンバー1!「今までのハリウッドホラー映画とは一線を画す、新感覚ホラームービー!」日本ではすでにハリウッド版『ザ・リング』が興行的にも批評家的にも大成功を収めたというニュースが報道されたと思う。
 実際、アメリカでの評判はかなり良く、先行上映なども頻繁に行われていた。通常、先行上映(スニークプレビュー)は、配給側がかなり作品に自信があるときでないと行われない。公開近くなると、TVやWEBサイトでは連日『ザ・リング』の宣伝が行われ、秋シーズンの中心的存在になっていた。

 当初は8月公開予定だったのだが公開延期になり、10月のハロウィン・シーズンに持ち越された。公開が遅れた理由として、ティム・バートン版『PLANET OF THE APES 猿の惑星』(01)や『グリンチ』(00)などでも有名な特殊メイクの巨匠リック・ベイカーが、恐怖メイクにこだわり過ぎたためという説が有力となっている。

 果たして、どんな怖い特殊メイクを創りだしたのだろうか?制作費も日本の『リング』の31倍!と言われるだけにどんな作品に仕上がっているのか楽しみである。これは自分の目で確かめねば、と映画館に足を運んでみた。
米版『ザ・リング』のポスター
 その日は公開から第2週目の木曜日の夜。普通なら映画館はガラガラのはず….しかし、リングが上映されているシアターに足を踏み入れると、平日にも関わらずほぼ満席になっているではないか。本当に『ザ・リング』がヒットしている事を実感した。日本初のホラーがここまでアメリカを熱狂させるとは…。

 上映が始まった。映画館全体に緊張が走る。実際、僕もシートにしがみつくように画面を見ていた。しかし、この恐怖どこかで感じたような…いや、感覚と言うより、このシーンどこかで観た事あるような?まさにデジャブ(既視感)と言う感じ。それもそのはず、よくよく考えてみると日本版『リング』と本当に同じなのだ。出演者がアメリカ人になったのと、カメラワークが空撮など手の込んでいること以外、シーン構成に至るまで日本版にそっくりなのである。
 ただ、似ているからと言って退屈な作品ではない。日本映画特有の会話の間にはさまれる沈黙などはなく、けたたましい音楽や音響効果と共に話はどんどん進んでいくのだ。このテンポ、さすがハリウッド版である。

 恐怖シーンでも日本発のホラーらしい「黒髪のヌメッとした感覚」をうまく取り入れ、アメリカ人の観客にとっては新感覚の恐怖を演出していた。そして、日本版『リング』でもその恐ろしさに話題となった「TVから貞子が現れるシーン」は今回も健在で、あまりの恐ろしさに女性客らが悲鳴をあげると言う事態にまでなっていた。これは近年ハリウッドで製作されたホラー映画の中では群を抜く恐怖映画だ。
東京国際映画祭で記者会見を行った『ザ・リング』主演のナオミ・ワッツ
 ただ、上映が終ったあと観客の一人が「日本版のほうが怖かったなー」と言っているのを耳にした。うーん、確かに。僕も彼の意見には同意できる。ハリウッド版は確かにテンポが良いので飽きにくくはなっている。しかし、音楽などが多いため、せっかく恐怖シーンが少し薄まってしまう感じがするのだ。だから、日本版リングをすでに見た人の中にはホラーとしては少し物足りない、というかあまり新鮮味がないかもしれない。しかし、ハリウッドでリメイクされた映画の殆どが駄作になってしまっている現状を見ると今回のリメイクはかなりの上出来に思える。
 本当に僕がハリウッド版『ザ・リング』を見て一番不満に思ったのは作品の内容と言うよりも、これだけ日本版『リング』に似ていながら、日本側のスタッフでクレジットされているのが原作の鈴木光司のみであると言う事だ。これが権利を売ってしまったという事なのだろうか…。 なんだか、悔しいような、もったいないような気がした。

 日本でも11月2日から公開のハリウッド版『ザ・リング』。日本版とハリウッド版どちらが怖いでしょうか?是非見比べてみてください。
『ザ・リング』公開中のブリッジシアター
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