TEXT BY 庄司由美子

 最新ラテン映画事情
 『Real Women Have Curves』プレミア試写会&パーティ・レポート

 ロスアンゼルスに住んでいると、ラテン・アメリカの文化がとても身近に感じる。もちろん、ニューヨークやマイアミなど、ラテン・アメリカから来た人達の多く住む場所は他にもたくさんあるが、カリフォルニアは、全米第一のラテン人口を誇る州。彼らは土建業やレストランの給仕、銀行員、セールス、それこそ映画スターに至るまであらゆる仕事をして逞しくアメリカで生きている。
 映画も最近、そんなラテン・アメリカ・マーケットを意識したものがだんだん多くなってきた。動きとしては2つあって、1つはスペインやラテン・アメリカで制作された映画の上映が増えたことと、もう1つはそれらの国出身の監督や俳優の、アメリカでの活躍が目立ってきたことだ。今年の話題はやはりメキシコの『天国の口、終わりの楽園』(02)の大ヒットに尽きるだろう。メキシコ国内はもとより、アメリカでの成功により、監督のアルフォンソ・キュアロンは、ハリー・ポッターの3作目を監督するという。

 今回は、そうやってアメリカでの成功を狙う、ラテン・アメリカ出身の女性監督パトリシア・カルドーソの長編映画デビュー作品『Real Women Have Curves』のプレミア試写会とその後のレセプション・パーティについてレポートする。
インビテーションカード
 『Real Women Have Curves』のプレミア試写会は、10月15日(火)夜7:30より、ハリウッドはサンセット通り沿いの“シネラマ・ドーム”という、巨大なドーム状の映画館で開かれた。この作品は、今年のサンダンス映画祭の観客賞(ドラマ部門)を受賞し、またトロント映画祭の公式招待作品として選ばれたもの。それを、今一番波に乗っているケーブル・テレビ局HBOと、ニュー・マーケットフィルムが共同で配給するという。

 当然、招待客もそのような「インディ業界のキーパーソン」が中心になる。だからというわけではないが、必要以上に着飾ってくる人はあまりいない。映画の中に特別に有名なセレブリティが出演していないからという気もするが、会場内は非常に落ち着いた、アートシネマを愛し、若い才能を応援しようという業界人で一杯といった感じだ。もちろん、ビジネス・チャンスとか、ネットワーキングとかを狙っている人達もいるのだろうけれど。無料のコークとポップコーンを片手に、私もそんな業界人ウォッチングにしばしの間耽る。
 映画のテーマは、タイトルが表すように、「イイ女はみんな、ふくよかである」ということ。脚本執筆者の一人、ジョセフィーナ・ロペスは、自分の個人的な体験を映画にしたかったという。ちょっと太目のアンナ(アメリカ・フェレーラ)は、典型的なロスアンゼルスのラテン・アメリカからの移民家庭で育つ。高校卒業を控えた彼女は、優秀な成績のお陰で有名大学への奨学金を獲得するが、「家族が一番」の信条をゆずらない母親カルメン(ルーペ・オンティヴェロス)は、アンナを姉の倒産寸前のドレス縫製工場で働かせる。そんな中でアンナは、白人のボーイフレンドができ、太めな自分にだんだんと自信を持つようになり、まわりの応援もあって、大学入学を決心し、納得しない母親を含む家族の元を巣立っていくという話だ。
 面白いのはこのシーン。猛暑真っ只中というのに、納期に追われ、扇風機もクーラーもない工場で働くアンナは、Tシャツを脱いで上半身下着だけで仕事をする。「はしたない」としかる母親に、「暑いのに見かけなんか気にしていられない」と抵抗し、姉を含む他の女性工員たちにも服を脱ぐようけしかける。そうすると、皆が一斉に服を脱ぎ始め、ぜい肉を自慢し始める。太っていることは美しく、恥じることではない。そういう自分を愛し、誇りに思うべきだと訴えるシーンだ。一般的なラテン女性の美の基準値が、おおらかさやふくよかさにあるからだろう。いや、日本人の私だって、「ほら、ぜい肉が…」と自慢したくなるおかしいシーンだった。
ラテン系の人々で埋め尽くされた会場
 映画全体としては、観客賞が理解できる非常に親しみやすい作品といえる。凝った演出やカメラワークとかはないものの、家族の小さな問題を丁寧に扱い、アメリカに住むラテン・アメリカの人達のリアルな日常を描いたものとして批評家達の評判も上々だ。

 監督のパトリシア・カルドーソは、1987年にコロンビアからアメリカに移住。なんと考古学と人類学の学位をもつという。UCLA在学時の短編で、1996年のステューデント・アカデミーを受賞し、本作が長編デビュー。これからが期待される若手の1人になるだろう。主演のアメリカ・フェレーラはこれが映画初デビューの18歳。この日は、映画の中で姉がアンナにプレゼントした赤いドレスを着て現れた。
 その後のパーティは、映画館から歩いてすぐのThe Projectsというオープンエアの会場で開かれた。映画館の落ち着いた雰囲気とは打って変わって、まさに「ラテンの夜」。インディペンデント映画とはいえ、なんだかハリウッド映画のプレミア・パーティみたいで、ダンス・フロアにはOZOMATLIというラテン・ラップバンドも入り、会場内は人、人、人。ビュッフェ形式の食事はもちろん、ラテン・アメリカ料理だ。アルコールもワインを始め飲み放題。

 いやー、本当においしかったけど、みんなこの「タダ飯、タダ酒」が目当てなんだろう。ビュッフェの前は長蛇の列だった。出演者やスタッフを褒め称える人、ネットワーキングする人、飲んで歌って踊る人などなどで、会場内は熱気いっぱい。こうして、ハリウッドのラテン・フィエスタの夜は深けていった。
 『Real Women Have Curves』は、10月18日(金)から限定都市のみで公開されている。これから公開のラテン映画としては、スペインのペドロ・アルモドバル監督の新作『Talk to Her』、そして『天国の口、終わりの楽園』のガエル・ガルシア・ベルナルが主演し、メキシコで大ヒットだった『The Crime of Father Amaro』など、話題作品が目白押しだ。これからもますますラテン映画からは目が離せない。
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