TEXT BY 伊藤秀隆(監督/プロデュース/脚本)

 異彩を放つ映画『パンチドランク・ラブ』P・T・アンダーソン監督最新作!

 最近、大スターが携わっているにも関わらず、インディーズ系の配給会社から小規模でスタートする映画が多い。ロビン・ウイリアムズ主演『ストーカー』や、トム・ハンクスがプロデューサーとして参加した『My Big Fat Greek Wedding』などである。これらの映画は最初、少数の映画館で公開が始まり、次第に人気が高まって最終的にはどこの劇場でも見られるほどの大ヒットに発展している。大爆発シーンやスペシャルエフェクト満載のお祭り映画ではなく、スターは出演しているものの内容重視の秀作、傑作が多いのが特徴だ。
 そして今、またしても一つの傑作映画が、密かに公開されジワジワとその人気を伸ばしている。タイトルは『パンチドランク・ラブ』。主演はアダム・サンドラー。日本ではまだブレイクしていないが、米国では『ビッグ・ダディ』('99)や『リトル★ニッキー 』(00)などで大ヒットを飛ばし、一躍スターダムにのし上がった。監督は27歳の時、監督、脚本を担当した『ブギ―ナイツ』('97)でアカデミー・オリジナル脚本賞にノミネートされ、その後もトム・クルーズの新たな魅力を見事に引き出した『マグノリア』('96)などを製作したポール・トーマス・アンダーソンだ。

 これは、面白くないわけがない。実際、かなり小規模でスタートしたが、あっという間に上映館数が拡大してきている。いつもは、コメディーばかりのアダム・サンドラーだが今回はコメディアンとしてよりも役者としての資質が問われる内容なので、それもまた楽しみである。そして、気になるストーリーだが…。
ポスターのデザインからして上品な雰囲気が漂っている
 アダム・サンドラー演じるバリーは気弱で臆病、おまけに精神が不安定で切れるとすぐにものに当たり、ぶち壊してしまう困り者。そんなバリーがたまたま出会ったレナに恋をしてしまう。二人は愛し合うようになり、平凡な幸せが訪れるかに見えた。だが、そこに予期せぬ出来事が襲いかかってくる。レナに出会う前についかけてしまったテレフォンセックスが原因で、その女とバックの男たちがバリーから金を脅しとろうとし始めるのだ。そしてバリーが取った行為とは?
 という展開だが、これが結構面白い。『マグノリア』で衝撃にラストを見せてくれたポール・トーマス・アンダーソン監督だけに今回も期待してしまうのだが、これが至って普通の物語。さほど新鮮なストーリーではないのに、他のハリウッド映画とは違った不思議なテンポと雰囲気を醸し出してる。

 なによりもまずは映像。この映画、映像がかなり美しい。影や反射などをとてもセンス良く使いこなしていた。中でも特筆すべきは、色彩の使い方。アダム・サンドラーの服がずっと青で、エミリー・ワトソンの服が白か赤かそのグラデーションで統一されていて、視覚的にもキャラクターの性格を表す上でもとても効果的である。

 その他、差し込む光の色が、微妙にボヤけていて虹色を出していたり、買い物シーンで、背景をボヤかしその部分を虹色に撮影していたりと、撮影方法から色彩設計に至るまで計算し尽くされた映像なのだ。そして、その綺麗な映像が、これまた鑑賞後も耳に残るような穏やかな音楽と融合し独特の味わいに仕上がっている。
ハリウッドが生んだ、ハリウッドぽくない監督?ポール・トーマス・アンダーソン
 この映画は現在批評家から絶賛を浴びているが、その理由はハリウッド映画としては本当に異彩を放っているからに他ならない。是非、この皆さんも『パンチドランク・ラブ』を映画館で堪能してください。

 ただ、もし良かったら一つチェックしてきて欲しいのですが、ハワイのベッドシーンのあと、アダム・サンドラーの着ていた衣装ってホテルの浴衣ではなく、柔道着だったと思うのですが… 僕には良く分かりませんでした。どなたか、確認よろしくお願いします。

☆『パンチドランク・ラブ』2003年初夏、恵比寿ガーデンシネマにて公開!
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