TEXT BY 庄司由美子

 ロスアンゼルス最大の映画祭の一つ、AFI FEST 2002レポート

 私が長い間心待ちにしていた、ロスアンゼルスで最も有名な映画祭の一つ、”AFI FEST2002”が、11月7日~17日まで、ハリウッドのシアターコンプレックス「アークライト・ハリウッド」で開催された。
 AFI FESTの主催は、AFI (American Film Institute)という団体。このAFIの中核を成すのは、フィルムスクールである。全米の大学院レベルのフィルムスクールランキングでも上位にランクされる名門で、デビッド・リンチなどを輩出している。他の学校より国際色豊かで学生の年齢層もわりと上と聞く。

 この教育部門に加え、映画祭や様々な上映イベントの主催、AFI賞の選考などを行う部門があり、アメリカのインディペンデント映画界ではなくてはならない存在となっている。
会場の天井に映し出されるロゴ
 AFI FESTは今年で16年目を迎え、ロスアンゼルスでは最長の映画祭の一つでもある。地域に密着したフェスティバルで、コダックなどの大企業に加え、地元の企業も数多くスポンサーしている。期間中は全37カ国、約150もの映画が上映された。今年の動員数は過去最多を記録したそうだ。

 会場のアークライトでは、夜になると入り口付近でジャズトリオが演奏を始め、中の大きなカフェは、英語、フランス語、スペイン語など様々な言語の聞こえる、映画の社交場と化す。もちろん昼間にも映画祭は行われているが、雰囲気を味わうならやっぱり夜。知り合いの映画関係者の方々にも会うし、着飾ったオシャレな映画人が多くなる。ここにいるだけでもなんだかワクワクした気分になれる。
 今年の映画祭の構成は、オープニングナイト、センターピース、クロージングナイト、トリビュートなどに分かれている。オープニングナイトはデンゼル・ワシントン初監督の『Antwone Fisher』、クロージングナイトは、2000年アカデミー賞外国語映画賞のペドロ・アルモドバル監督の最新作『Talk To Her』。

 そしてトリビュートは、イギリスの名優マイケル・ケインの回顧上映展だ。映画祭の目玉、センターピースの構成はこのようになっている。デビッド・クローネンバーグ監督の最新作『Spider』を含むスペシャル・スクリーニング、審査対象となるインターナショナル・コンペティション(長編ドラマ、長編ドキュメンタリー、短編)、ラテン・シネマ・シリーズ、アジア・ニュー・クラシック、アメリカン・ディレクションズ、メイド・イン・ジャーマニーなどだ。
街中にあふれる看板
 とにかく足を運ぶ人は、配給会社、制作会社などの映画関係者と目の肥えたロスアンゼルスの観客。彼らにアピールするためには、どれだけユニークで、新進気鋭の映画を上映できるかが鍵だ。それも映画祭の上映作品を決めるプログラマー達の力量にかかっているし、また映画祭の個性というのも彼らの視点に左右される。だから、この期間のプログラマー達の疲労具合といったらスゴイのだ。それに、これから世に出ていこうとする映画の将来にも影響するので、上映される映画の関係者達も気が気でない。
 数多くのセレブリティも映画上映・パーティなどに参加している。クリスティーナ・リッチはコンペティション部門の審査員の1人。また、たまたまフェイ・ダナウェイを目撃したのだが、彼女が看板にぶつかって照れくさそうに笑っているのを見たときは、「あの伝説の女優が目の前に…。」とちょっと感動した。
 親愛なる私のボス、スーザンが「私の関係者パス、使っていいわよ」といってくれたおかげで、フリーで会場に出入りできたのだが、時間の関係もあって鑑賞できたのは、ラテン・アメリカからの3作品。どれも劇場を満員にする人気の作品だ。

 1つ目は、コンペティション参加作品の『Every Stewardess Goes to Heaven』という、ニュー・アルゼンチン・シネマの旗手、ダニエル・バーマン監督の作品。今、私がお手伝いさせて頂いているサンダンス・NHK国際映画作家賞の、2001年度ラテン・アメリカ部門の優勝作品だったこともあり、監督自らがチケットを用意してくれた。美しいシネマトグラフィが印象に残る作品。
左からブラジル文化庁PR担当のフェルナンドさん、庄司、AFIラテンフィルムコーディネーターのホワンさん(右)
 2つ目は 俳優ジョン・マルコヴィッチの初監督作品、『The Dancer Upstairs』。2001年度アカデミー主演男優賞にノミネートされたハヴィエ・バルデムがテロリストの指導者を追う元弁護士という設定のサスペンスドラマで、彼の演技が抜群に良かった。3つ目が超お勧めのブラジルの作品、フェルナンド・メイレレス監督の『City of God』。ミラマックスが今度のアカデミー外国語映画賞にしきりに推薦しているらしい。

 リオ・デ・ジャネイロのスラム街に生きる、ストリート・チルドレン達の生存競争を描いたもので、とにかくパワフル。以前からかなり噂に聞いていて、ブラジル映画の監督、プロデューサーの方々も「過去10年のブラジル映画で最高の出来&興行成績」だという。知人のAFIラテン・フィルム・コーディネーター、ホワン・パチェコさんにも「パスをもっていても早く来たほうがいいよ」と薦められ、1時間前から並んだ。もちろん満員。パスやチケットを持っていても座れない人がいて、帰されたりしていた。ベスト・インターナショナル・フィーチャー・フィルム観客賞を受賞していたが、それも納得だ。日本で公開されたら、絶対見て欲しい。
 アジア映画だってがんばっている。奥田瑛二初監督作品の『少女』は、インターナショナル・コンペティションの国際長編映画部門・最優秀審査員賞を受賞していた。これは非常に名誉あること。日本人としてはうれしい限りだ。また、『The Ring』効果なのか、中田英雄監督の『Dark Water』の上映にも長蛇の列が出来ていた。

 映画祭に行くと、いろいろな出会いも多い。たまたま待ち時間に、ニカラグアから移住してきたという映画マニアの学者の女性と知り合い、映画話に花を咲かせた。こういうなにげない出会いってとてもうれしかったりする。来年の開催は11月6日~11月16日の予定だという。この期間中にロスアンゼルスに足を運ぶ映画ファンの方、ぜひ足を運んで欲しい。
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