TEXT BY 深澤耕輔(プロデューサー)
|
|
インディーズ・ムービー撮影日記 in L.A. 中編
|
映画製作の場において問題が起こるのは仕方ない。それはプロでも僕達学生映画でも同じ事だ。ただ、今回の撮影のトラブル処理で、僕の寿命は5年は縮まったと思う。実際、撮影の終わるころには「君は26歳?」なんて初対面の人に言われてしまった。本当はまだ21なのに---。今回もおなじみ、LAインディーズ映画界で活躍する日本人プロデューサーの熱いレポートです!
|
|
|
撮影初日、ノースリッジでのロケーション撮影。「道路沿いの駐車場から飛び出した乳母車にトラックが突進していく」というシーン。朝の4時に集合して、太陽が昇るのと同時に撮影がスタートした。今の季節だと、太陽は午後3時半くらいからどんどん沈み始めてしまう。時間がない。それほど長いシーンではないので、僕の計算では予定通りに進むはず・・・。
と思ったら、撮影未経験のスタッフも混じるこのクルー。なかなか、うまく動けない。製作部の「車止め(他の車が入ってこないようにする役)」も要領が悪いし、撮影部もカメラアシスタントが撮影監督(DP)の指示に追いついていない。予定がどんどん遅れていく。太陽も沈み始めた。 |
こちらが撮影部隊!空気が悪い地下室で皆がんばってます |
|
|
伊藤監督も思わず立ち上がって、「車止め」や「美術」などにどんどん指示を出し始めた。なんとか、日が沈むまでにこの場所で撮らなければいけないショットは終了したが、クローズアップなど撮り残しも大量にあり、これからの予定は練り直しとなった。胃の痛くなるような初日スタートである。
次の日は予定を変更して、今回のメインロケ地となるLAダウンタウンにある巨大地下室の近くで昨日の撮りこぼしを撮影。その間、地下室では美術部がセットを組み、衣装部やメイク部が俳優と色々な調節を行っていた。問題はそこでおきた。主人公ケイというのはアジア人で、髪型はショートの女の子、というのが監督のイメージなのだが、主演女優の髪型はロング。監督が交渉の末、ショートにすることを納得させたが、女優本人は仕方なく・・・と言った感じ。しかし、メイク部は女優から「すでに快諾」と受けていたため、髪の毛を監督のイメージどおりバッサリ切り落としたのだった・・・。 |
|
|
「主演女優が泣きながら帰った」僕がこの報告を受けたとき、彼女の姿はすでに現場にはなかった。明日からの20日間の撮影の間、主役はでっぱなしのはず。その主役が、もし降板と言うことになればこの映画の製作自体が危ない。僕の頭の中で「製作中止」の赤ランプが点滅した。すでに、スポンサーからもらった予算はかなり使っている。もうあと戻りは出来ない。しかし、今僕に出来るのはキャスティング担当が必死に彼女の携帯に電話するのを見守ることしかできなかった。 |
|
|
翌日、何事もなかったように現場に現れた彼女を見て監督と製作部がどれほどホッとしたことだろうか。これで予定通り撮影を進めることが出来る。
しかし、このあとも俳優の一人が我がままを言い出して降板となったり、プロの撮影監督や照明監督に学生アシスタントがなかなかついていけなったりと、気の休まる暇がない。何か問題が起こる度に、いつもしわ寄せが行くのは美術部。寝る暇もないほど忙しくなってしまい、体力と精神力のギリギリに追い込まれる。その他、疲れがたまるにつれて各部署で様々な問題が勃発し、その度ごとに皆で一つ一つ解決していった。 |
|
製作部も60人分のご飯作ってますよ! |
|
|
今まで撮影から照明に至るまで自分でこなして来た伊藤監督も、今回初めてモニターの前から指示を出すことに慣れず大変そうだ。まー大変な割に、モニターの前で居眠りしているのを時々目撃したが・・・。
そんな感じで、僕らは12月の大半を空気の悪いLAの地下室で過ごした。しかし、こんな過酷な現場も10日間を過ぎた辺りから、撮影スピードが格段に速くなってきた。学生スタッフも慣れてきたのだろう。疲れは溜まっているものの、皆の体が自然と動くようになってきたのだ。だが、撮影速度が速くなっても監督からでるショットの量も多くなるので撮影が早く終わるわけではない。ただ、それだけ作品の質は上がるだろう。これは、かなり良い傾向だ。このスタッフ達の労を少しでもねぎらいたいと僕ら製作部も頑張って夕飯を作っている。 |
|
|
そして、ついに12月29日地下室の撮影終了。その後、1月3日、4日、5日の外での撮影。18日のクラブを貸しきって、エキストラ80人を集めて撮影したカジノのシーン。監督が雨を降らせることにコダワッたためロケーション選びが難航し、結局最終の19日に行われた病室のシーンなど、21日間に及ぶ全撮影日程は小さな事故のみで、無事終了したのだった。
素人同然だった学生スタッフ達もプロのスタッフに「若い奴は凄いな」と言わせるほど成長した。つらい撮影を乗り越えた分だけ60人近くのスタッフ同士の絆も強くなった。
僕は他の映画専攻の学生に比べると現場が好きではない。しかし、こういう過程を目の当たりにするたびに映画製作という一つの地獄が吹き上げる美しい炎の魅力に惑わされてしまう。と、まー撮影が終了し無邪気に感動しているのだが、実際のところ僕や監督にそんな暇はなく、これからは始まる長いポスプロに向けて新たに覚悟を決めなければならなかった。
協力:Planet Kids Entertainment |
|
<<戻る
|