TEXT BY 伊藤秀隆(監督/プロデュース/脚本)

 「シネギア2003」 ハリウッド撮影機材展

 6月6日と7日、ユニバーサルスタジオ内でハリウッドの撮影機材が一同に集まる「シネギア」という展示会が行われた。撮影機材展というかなり専門的な催し物なので、参加者のほとんどはカメラマンや照明さんなど映画関係者。とはいえ、普通の映画ファンにとっても一見の価値あるイベントになっている。
 シネギアの会場は、普段なら一般の人は決して入れないユニバーサルスタジオのど真ん中。シネギア入場者専用に確保されたゲート3に車を駐車し、表に出るとユニバーサルスタジオの人気アトラクションとしても知られるトラムが待っている。飛行場のように厳重な持ち物検査を受けた後、トラムに乗り込む。

 普段のユニバーサルのツアーでは絶対に通らないルート、観光用ではなく実際に映画を撮影しているスタジオやスピルバーグ監督の製作会社「アンブリン・エンターテイメント」、ロン・ハワード監督の「イマジン・エンターテイメント」などのオフィスを通り抜けて会場に向かう。
入り口:オープンセットの中で開かれる「シネギア」には全米から撮影技術者達が集う。
 途中、来年の春公開される映画の撮影なども行われていた。一般の観光客だったらかなり感動する光景だ。しかし、ここにいる人たちのほとんどが映画を仕事にしているためか、特にこれといった反応もなかった(僕だけちょっと感動してたりして・・)。
 トラムが到着したのは、ローマ時代の巨大な門や西部劇で使われそうな建物などが立ち並ぶオープンセットである。その中に、カメラを縦横無尽に動かすための機材や、照明などの機材がメーカーごとに展示されている。

 機材の中でまず目に付いたのが”Hydro Gyro Perfect Horizon”。これは、海など揺れのある場所で安定した撮影をしたいときに使用する機材だ。船に乗ってビデオ撮影を経験したことがあれば分かると思うが、海上で安定した映像を撮るのは至難の業。しかし、この機材を組み込んだカメラを水面に浮かべ、電源を入れると、あら不思議。まるで、海の真中に三脚を立てたかのように微動だにしない映像が撮影できる。スピルバーグ監督がジョーズを撮影したとき、「二度と海を舞台にした映画は撮りたくない」と言ったそうだが、当時この機材があればもっと楽に撮影ができただろうに……。
水面カメラ:海での撮影も地上のように安定する魔法のカメラ。
 他にも、巨大クレーンの先にカメラをつけてコントロールする機材もあった。これがあれば、まるで鳥の目から見たような映像が撮影できるのだ。空中から舞い降りてきて被写体を追い、そのまま怪しい倉庫の中へ入っていく。被写体の背中を追いつづけていくカメラ。とそこに、車のエンジン音が! カメラは再び宙に舞い上がり、倉庫の前に乗りつけた車を捕らえる。

 とまあ、こんなサスペンス風のシーンをノーカットで撮影したデモテープがあり、思わずその機材の担当者に「いくらくらいで貸してくれる? 僕の映画で使わせてくれません? 予算はないですけど……」などとそのまま交渉に入ってしまった。
クレーンカメラ:次回作では是非使いたいクレーンカメラ。鳥の視点での映像が簡単に撮れる。
 それにしてもこのシネギアという展示会、撮影関係者にはとても大切なイベントで、僕の知っているLA在住のカメラ・照明関係者にはほぼ全員出会った。実際のところ、僕は撮影機材についてあまり詳しくない。しかし、ここに展示されている工夫に工夫を重ねた機材たちを見ていると、様々なストーリーテリングのアイデアが浮かんでくる。

 映画を作る上で、技術に溺れてはいけない。しかし、技術なしには新しい映像表現というものはできない。監督達はいかに観客の心に自分が伝えたいストーリーを染み込ませるかに腐心し、様々なイメージを頭の中に作り上げる。撮影技術者たちは、そんな監督のイメージを実現できるような新しい技術を苦労して作り出す。色々な分野の人たちの努力によって、映画が生み出されていることを改めて感じた。

 映画製作を志す人たちには是非一度訪れて欲しいイベントだ。
<<戻る


東宝東和株式会社