TEXT BY 伊藤秀隆(監督/プロデュース/脚本)

 ハリウッドを支える映画学科 パート1

 映画監督になるにはどうすればよいか? 

どこかのプロダクションに入社してADから始める、インディペンデント映画を作って映画賞に応募する、脚本を書いて認められる。道は色々あるが、ハリウッドで映画監督になる一つの早道(それでも確率は1000分の1くらいだが)は、大学の映画学科に入ること。特に、ロサンゼルスにあるUCLAとUSCの映画学科出身の監督はかなり多い。コッポラ、ゼメキス、ルーカス、ロン・ハワード、そうそうたるメンバーが揃っている。
 「アメリカの大学にある映画学部って、何するの?」個人的にも、僕らが運営するPlanet Kidsの掲示板上でもよく聞かれる質問だ。僕も高校卒業後に渡米する時、同じことを思った。だから、気持ちは分かる。これから、アメリカで映画製作を学ぼうとする人たちのお役に少しでも立てればと思う。
 映画の都ロサンゼルスでは、たいていの大学に「映画学部」がある。しかし、授業内容はどこもあまり変わらない。「えっ!」と驚かれるかもしれないが、日本の大学の経済学部を思い浮かべてほしい。大学レベルでは一流大学でも無名大学でも、授業内容に大差はない。僕の友人たちも、有名大学の友人と無名大学の友人が同じ教科書を使っていた。では、何が違うのか? 確かに、有名大学の教授陣は粒が揃っている。僕がUSCで「スピルバーグ現象」という評論のクラスを取った時、スピルバーグが講演しに来たし、キャンパス内で有名人を見たこともある。しかし、これは映画学部で映画製作を学ぶこととは実際には何の関係もない。なぜなら、スピルバーグが16mmカメラの扱いについて、基本的なところから学生たちに教えるわけがないのだから。
これがエクステンション。毎学期コース内容が変わるが、講師陣は一流どころが揃っている。学位がいらない人にはお薦めかも?
 では、高い授業料と高い競争率という2つの壁を突破して有名大学に入るメリットは何か。一番大きい点は機材だろう。小さい大学には16mmカメラが2台しかないというところがある。こういうところでは、いつも誰かが使っていてなかなか自分でカメラに触れる機会を得られない。しかし、最近は短大でも多額の費用をかけて機材の充実を図っているところもあるので、一概には言えない。あとはネットワークだろうか。名前のある学校には、世界中から高い志を持った学生が集まる。学生のうちの10%位は、将来映画界を背負って立つ有名人になる奴らだ。その中に切り込んでいって切磋琢磨するのも良いかもしれない。コミカレにいても、良い作品を撮ればそれなりの注目が集まるので、映画祭や上映会などで他の大学の才能と触れ合う機会を持つこともできる。
映画製作の現場:寝る暇もない……映画製作は体力と気力の勝負?
 内情を暴露してしまえば、映画学部などはどこに行っても同じなのだ。大切なのは「どう映画製作をしていくか?」ということだ。良い作品を制作することができれば、学校などの枠は関係ないし、もっと言ってしまえば、人種や国なども関係なく一目置かれる存在になることができる。結局、「映画学部」というのは映画製作を始める「キッカケ」をくれる場の一つでしかない。ロースクールに行けば弁護士に、医学部に行けば医者になれるが、映画学部に行けば映画監督になれるというほど甘くはない。要は本人次第なのだ。

 監督などクリエイターの視点で話を進めてきたが、もし大手の映画会社に就職したい! という方がいたら、その方には有名大学への道をお薦めする。なぜなら、ドリームワークスを始めとするハリウッドのメジャースタジオの多くは、USC、UCLAの学生を優先的に採用するという現実があるからだ。しかし、こういうメジャースタジオがほしいのはクリエイターではなく、サラリーマンなので、そこのところを誤解してはいけない。
 次回からは「何の授業を受けられるか」という具体的な内容をご紹介していきたい。その前に、映画における「学校を利用する姿勢」について触れる必要があった。これから、映画製作を勉強しようと思って留学する方々には是非、学校ではなく自分次第、という考え方を持って頑張ってほしいと思う。

※映画学科編は月イチで連載します。
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