TEXT BY 尾崎佳加

 スターと一緒に授賞式に出席しよう! VIP席のお守り役“シートフィラー”って?

 今月から授賞式シーズン入りしたハリウッド。今年は2月29日に開催が決まったオスカーナイトだが、読者のみなさんもライブで観るという方が多いのでは? うっとりため息のでそうなセレブの豪華な集いはまるで遠い別世界のよう…なんて思ってません? あなただってドレスアップし、実際に出席できるチャンスがあるんですよ! そんなわけで、今回はすぐに航空券を手配できるよう準備してから読むべし!
 ショウビジネス界の華やかな顔ぶれが集まる最高栄誉の日に、スターと隣り合って式の進行を見守る…。一般から募集される、この夢のような仕事は“シートフィラー”と呼ばれるもの。世界中に放送される授賞式の様子は、会場中を何十台とあるカメラがパンする中、空席があったりすると「誰の席だろう?」なんて、気になってしまうもの。主催側だって空席が目立つことを好まない(特にスターが集まり、よくカメラのまわってくる前10列)。

 そこで活躍するのがシートフィラーたち。なんらかの理由により出席できないスターやチケット保持者の代わりに席をフィル(満たし)、常に場内満員をキープすることが彼らの役目なのだ。
2004年のピープルズ・チョイス・アワード授賞式が行われるパサデナ・オーディトリアム
 受賞候補スターや関係者はその日、彼らの晴れ舞台を見守るのにベストなVIPシートを用意されている。ところが彼らも人の子である。何らかの理由で会場に遅刻してしまったり、式の途中でトイレに立ったり、他にもちょっと私用なんかでどうしても席を離れなければならない時がある。こんな時がシートフィーラーの出番だ。わずか数分席をあけるのもままならないイベントで、席を暖めながらスターの帰りを待つことから、彼らは別名“シートウォ―マー”とも呼ばれる。
 この無償だが極めておいしい仕事を斡旋してくれるのが、Seatfillers & More (シートフィラーズ&モア)という組合。過去はグラミー賞チケット(買えば何千ドルという値もつけられるらしい)も配布していたという彼らが手がけるイベントは、みなメジャーなものばかり。ミニ・オスカーとも呼ばれる、俳優組合(Screen Actors Guild)主催のスクリーン・アクターズ・ギルド賞(SAG Awards、サグ賞)、アメリカ音楽史最高賞のアメリカン・ミュージック賞(American Music Award)は最も人気で競争率が高い。
パサデナ・オーディトリアムは、映画以外でも音楽賞、エイミー賞などの会場になっている
 今月11日開催の、Gallup poll(ギャラップ調査)により一般の投票をもとに選ばれるピープルズ・チョイス賞(The People's Choice Awards )の席は、昨年12月配布直後に完売しているが、他にもTVガイド賞(the TV Guide Awards)、ブロックバスター賞(the Blockbuster Awards)、日本でも人気が高いミュージック・チャンネル"MTV"からMTV賞(the MTV Awards)等をはじめ、たいていのビッグイベントはここで無料配布している。

 では、いったいどうしたらシートフィラーになれるのか?特別な資格や厳しい訓練が必要なのか…。そんなことはありません。難しいオーディションなんていうのもなし。オンラインでただ登録をするだけで、そのチャンスは回ってくるのです。
 組合のサイトseatfiller.comで基本的な個人情報を入力、参加したいイベントと同行する人数を送信して申し込む。後に写真、英文の履歴書と「なぜシートフィラーになりたいか」を記したカバーレターを添付し、ウェイティング・リストにメールアドレスを登録しておく。たったこれだけで面接もなし、後はひたすら連絡を待つのみ。当選が決まれば電話かメールで通知があり、日時と会場、ドレスコードなどの詳細情報が伝えられる。

 こうして晴れて当選したあなたは、フォーマルな衣装で身を包み会場へ向かう。あたかも賞関係者のように威風堂々、ジョニー・デップやハル・ベリーといったスターと肩を並べるあなたの姿をカメラが捉え、全米に放映する…。
幾度ものオスカーナイトをホストしてきた、シュライン・オーディトリアム。今年もSAG賞の会場に選ばれた
 「ありとあらゆるスターがそこにいたんだから。大好きなグウィネス・パルトロウからトム・ハンクス、トム・クルーズ、それにずっと隣の席だったジェームス・クロムウェルでしょ。『フレンズ』のキャスト全員にも会えたし。もう最高の経験でした!!」彼女は2000年のSAG賞に当選し、一生の思い出を作ったラッキーな映画ファンだが、シートフィーラーになるとこんな経験ができるのだ。

 こんなおいしい仕事はないと浮き足立つところだが、出席には若干厳しい条件があることもきちんと把握しておいたほうがいいだろう。

 まず、プロ意識が要求されるわりに無償なのは、スターと過ごす素敵な時間が報酬だと思えばクリアだろうし、サインのおねだりや写真撮影が禁止なのも仕方がない。加えて、どんなに近くでトムが談笑していても、隣の席にジュリアが座っていても、彼らがあなたに話し掛けてこない限り、自らアプローチすることは禁止されている。中世の王室さながらのしきたりである。
 それから、はじめて応募してみた人が、上の女性のようにビッグな授賞式に参加できるケースも、残念ながら少ない。シートフィラーにもランク付けがあり、はじめのうちは小規模のイベントしか招待されないが、数をこなし、経験が認められたら徐々に大きなイベントに招待されるようになるのだという。ベテランだと評価されれば、スターのエスコート役やクルーメンバーに格上げされることもある。

 一番痛い現実は、会場に招待されたからといって、必ずしも出席を約束されたわけではないということ。会場まで行ったのに延々個室で待機させられ、ついには出席できなかったなどということもしばしば。まるで椅子とりゲームのように、誰かが席を立つまで順番は回ってこない。全ての運は出席者の行動に託されるのである。

 シートフィラーに求められるのは責任感とプロ意識。招待されたら必ず出席し、イベントが提示する規則を守れる人でなくてはならない。パスを持って会場入りする以上、あなたは単なる映画ファンではないのだから。こういう条件を堅苦しいと思わず「自分がイベントを成功させるのだ」とスタッフとしての意識をもてば、グラミーやオスカーへステップアップできる日も近づくに違いない!!

 もう一つ、シートフィラーとTV番組の観覧に応募できるサイトに、Audiences Unlimited(オーディエンス・アンリミテッド)というところがある。こちらもシートフィラーズ&モア同様に海外からの応募もOKだが、この業界、ほとんどのイベントがギリギリまで流れが決まらないため、開催数日前に募集を開始するケースが多い。日本から応募するには多少リスクがあるが、ハリウッドへ旅行がてらに授賞式シーズンのムードを味わいに来られる人がいたら、ぜひぜひ登録してみてほしい。
■Seatfillers & More (シートフィラーズ&モア)> http://www.seatfiller.com
■Audiences Unlimited(オーディエンス・アンリミテッド)> http://www.audiencesunlimited.com
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