TEXT BY 尾崎佳加

 お気に入り映画の撮影スポットに行ってみよう! ロケーション巡り Part 2
 米TVシリーズ「24」に見る、ちょっと危険なロサンゼルス

 前回のロングビーチ(連載195)に続き、映画ロケーション巡り第2弾!
今回は現場の中でも犯罪シーンに使われる、ちょっと危険な地区に潜入してみよう。
 今回巡ってみたロケ地は、日本では説明のいらないほど人気のTVドラマシリーズ「24 -Twenty Four-」から。
 時期大統領候補の暗殺計画が決行される1日を1時間ずつ24回にわたり放送し、現実の時間とシンクロして展開するリアルタイム方式のこのドラマ。24時間以内に起こる出来事を想定したストーリーだから、当然ロケ地も短時間で移動できる場所に限られる。ロスの犯罪背景をリアルに取り入れたプロットは、自由の国をうたうアメリカの真の素顔を知るのにふさわしいロケーションが選ばれていた。
「24 -TWENTY FOUR- DVDコレクターズ・ボックス 1」販売元:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


■ノースハリウッド (サンフェルナンド バレー)
 ワーナーブラザーズ、ユニバーサルスタジオなど数々の映画スタジオがあるスタジオシティー。ちょうどハリウッドの北部になるこの映画の産地は、毎日が観光客で溢れる賑やかな街だ。しかし、LAにあまり慣れない人々がこれ以上北に向かうことを私はあまりお勧めしない。
 ここはノースハリウッドと呼ばれる地域で、ヒスパニック系の人々が多く住む貧困街だ。銃撃戦や殺人事件の撮影には、実際によく犯罪が起こっている街が使われることが多い。「24」ではジャックの娘キムが暗殺一味に誘拐された場所として登場するが、実際のノースハリウッドもやはり犯罪率の高い街なのだ。特にこの辺りの大通り、シャーマンウェイでは実際に麻薬常習犯らと警察のカーチェイスが頻繁におこっている。
『このナンバーの車を通報せよ』ハイウェイパトロールが設けた臨時の電光掲示板。カーチェイス時に見かけることが多い
 この辺りに住んでいる私の友人の話だが、近所のコンビニを襲った強盗が住宅街に逃げ込み、そこを警察が閉鎖したため何時間も家に帰れなかったということがあった。犯人はあるアパートに備え付けてあった洗濯機の中に隠れていたところを警察官に取り押さえられ、御用。(アメリカでは個人で洗濯機を買わずアパートにある洗濯場を共同で使うのが普通)ジョークのようなオチだと一瞬は思うのだが、洗濯機にすっぽり身体の入る小さな少年が犯人だったんだと思うと笑えない。


■エコパーク
 エコパークはダウンタウンの中心地に近い住宅街だが、ギャングが多く住むので有名な街だ。「24」でキムを誘拐した一味に雇われていたリックという青年。映画の中でキムに、「お前みたいにいい育ちじゃないから」と語っていたが、その彼の家があるこの区域も、やはり治安の良いところではない。近所で発砲の音が聞こえ、家の上空を警察のヘリが巡回する。エコパークはこういう事件がめずらしくない地域の一つなのだ。

 エコパークは都心部に近く交通の便はいいのだが、治安が悪いため家賃が安い。白人の麻薬ディーラーが多く住んでいたという時期もあったが、最近はこの一帯も少し落ち着いてきた様子。創作活動のため広くて安いスペースが必要なアーティストたちが移り住むようになってから、エコパークの治安は徐々に改善されてきている。
一見のどかで閑静な住宅街のエコパーク。まだところどころにギャングの住処がある


■カリフォルニアプラザ (ダウンタウンLA)
 物語の中盤、敵と顔合わせをすることになったジャックが出向いたのが、ダウンタウンのカリフォルニアプラザだ。ドラマでは、休日を楽しむ家族やカップルの姿が多く描かれていたが、実際この辺りはビジネスアワー以外は耳鳴りがしそうなくらいの静けさに包まれる。全米55州のダウンタウンの中で一番寂れているLAといわれるとちょっぴり哀しいが否めない事実ではある。

 ひと気のないところに犯罪は忍び寄る。入念にボディーチェックを済ませないと入店できないパブや、街角に何するでもなく立っている男たち。夜のオフィス街に車を流している途中、後ろ手に手錠をかけられ連行される人を私は何度も目撃した。
平日は通勤者でごった返すオフィス街だが、週末は見事にゴーストタウンと化す
 こういう街だから警官のパトロールも厳重だ。車のヘッドライトが切れているのを知らずにダウンタウンを通りかかったある日、私は3回もパトカーに呼び止められた。他の地域なら多少見逃してくれる警官もいるだろうマイナーな違反だったから、3回目の警官と話した時はお互いが笑ってしまったほどだ。

 だがこの間も警官は腰の拳銃から手を離さず、けしてこちらへ背中を向けることもない。私がおとなしく車を発車させるのを見届けるまで抜かりない目で見張っているのである。
                 ※ ※ ※ ※

 アメリカ全土で報告されている犯罪は、80%が黒人やヒスパニック系の人々が関わっているという。そして、彼らのほとんどが差別による迫害で貧困から抜け出せず、犯罪に走ったケースだ。 門から屋敷が見えないビバリーヒルズのような高級住宅街がある一方で、浮浪者が軒並みテントを並べて通行者に物をねだる貧困街だってある。

貧富の差が激しいのがアメリカの真実だ。こういう部分も含めてこの国を見ると本当に自由を謳歌している人々がどれだけいるのかわからなくなってくる。
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