TEXT BY 尾崎佳加

 LAゲイ&レズビアン映画祭 「アウトフェスト 2004」

 最近アメリカでよく耳にする言葉でLGBT(もしくはGLBT)というのがある。レズ(lesbian)、ゲイ(gay)、バイセクシャル(bisexual)、性同一性障害者(transgender)を意味する、同性愛者に対する新しい名称だ。
 今や旅行会社がゲイ専用のパケージツアーを販売する時代。LGBTが大手を振って街を歩けなかった時代はとっくの昔で、ゲイコミュニティーは年々大きな発展を見せている。特に、今週のLAは、彼らのパワーがぶつかりあうロサンゼルスゲイ&レズ映画祭「アウトフェスト」の真っ只中。街のあちこちに掲げられた「OUTFEST」のフラッグがその賑わいを伝えている。

 今年で第22回目を迎えるアウトフェストは、知る人ぞ知るLAの老舗のゲイコミュニティーイベント。アーティストには同性愛者が多いと言われるが、彼らの繊細な感性と芸術的センスの高さは評価が高い。今年もこのアウトフェストに、US作品をはじめ世界のLGBT映画製作者から独創性の高い応募作が寄せられた。出展された作品群はホラー、コメディー、ロマンス作品などなど。他の映画祭となんら変わりないのだが、唯一違う点といえば全ての映画に同性愛がからんでいるということだ。
ハリウッド、ダウンタウン、サンタモニカの各地でスクリーニングが行われた。ここはハリウッドのShowcaseシアター
 ゲイ&レズものと聞くだけで強いメッセージ性を含んでいるような期待を持ってしまうが、ラインアップはこれを全く裏切らない濃~い作品群だった。『Annie Sprinkle's Amazing World of Orgasm』は最高のオーガズムを得るためのレクチャーをその道の専門家(?)に聞いて徹底研究いたしましょうというドキュメンタリーフィルム。同性愛者はもちろん、SM愛好者、身体障害者などのあらゆる人々が性体験を50分に渡り語ってくれる。アジアから寄せられた作品も多く、タイから出展された『Iron Ladies 2』(『アタック・ナンバーハーフ2 全員集合!』)は、ホモセクシャルを理由にチームを追い出されたバレーボール選手が女装してレディースバレーの道に走るという爆笑スポーツコメディー。2001年にUS公開されてヒットしたインディーズ映画の第2弾だ。
ゲイが多く住むウエストハリウッドで見かけた禁煙組合の広告。同性愛コミュニティーの大きさがわかる
 今までの同性愛映画というと、ゲイやレズたちの社会的地位の低さから生じる心の葛藤を描く、日常に焦点を置いたミニマル映画的作品が多かったが、今、LGBTが広く受け入れられる時代を迎えて、同性愛というテーマ以外に彼らの視点や感性が生きる多様な表現が可能になり、バラエティーに富んだアートが生まれてきた。

 こうした傾向とハリウッドのアニメーションブームが掛け合わされて誕生したゲイメーション(Gay+Animation)作品も多数出展された。このゲイメーションのコレクションの中には、ストレート(普通の人)をゲイの世界に引き込む、というテーマの作品が多数あった。
 そういえば、友達のゲイやレズが「ストレートの子をこっちの世界に目覚めさせるのが趣味」というアブないことを言っているのを思い出したが、これは同性愛者の願望みたいなものなんだろうか。また、今回の映画祭で意外だったのは、ホラー作品が多かったこと。それも、単なるハリウッドのホラーブームから発展したものではなく、“ホモホラー”という新ジャンルとして紹介されるほどの認知度がある。ホラー作品に描かれる張り詰めた恐怖とホモセクシャルという志向が生む繊細な感情にはリンクする要素があるというのが彼らの意見らしい。ヘテロの私はイマイチどこらへんがつながるのかわからないが、アウトフェストに寄せられたこれらの作品数が多いところを見るとポテンシャルを秘めたジャンルなのかもしれない。
新ジャンルホモホラー。ストレートにも受け入れられる日はくるのか?
 LGBT映画のバラエティーが富んでくるにつれ、こうした作品のテーマが必ずしも同性愛を前面に出すものではなくなってきた。アウトフェストで上映された作品も、ごく一般的なストーリーのものが多かった。ただ、製作者側がゲイであるため、シリアルキラーと勇敢に戦う主人公のカップルも、当然レズやゲイ、ということになる。彼らにとって同性愛はもはやテーマでなく、日常なのだ。
■OUTFEST 2004 "OUTFEST 2004" 7月8日-19日開催 > http://outfest.org
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