TEXT BY 尾崎佳加

 コントライブが楽しめるダイニングスペース。コメディークラブに行こう!

 映画スターになるには色々な方法がある。まずは普通にチョイ役で出演し、スタッフの目に止まる、モデルとして成功し、映画界に引き抜かれる、大物プロデューサーを色仕掛けで落とす?等々、やり方は様々だが、あまり知られていないのがコメディアンから映画界入りする方法だ。

 今は押しも押されぬハリウッドスターだが、駆け出しの頃はコメディー俳優だったという人はけっこう多い。オスカー俳優のトム・ハンクスが、キャリアの大半をコメディーに費やしてきたのはご存知の通り。ウーピー・ゴールドバーグやロビン・ウイリアムスは俳優であると同時に今でも第一線のコメディアンだ。
 アメリカにはコメディークラブという、コメディー専門のライブハウスのような所がたくさんある。ディナーテーブルでくつろぎながら、コメディアンが繰り広げるトークやコント、モノマネなどのパフォーマンスを楽しむ場所だ。今は大スターのウーピーやトムも、売れない時代はこんな所で芸を磨いていた。ハリウッドへのもう一つの入り口、コメディークラブを覗いてみよう。

 ロサンゼルスの日本人街でリトル東京と呼ばれるエリアに、Oiwake(追分)というレストランがある。普段はレストランだが、日にちによっては演劇やコメディーショーが行われる。このショーがまたなかなか過激なのだ。日本と違って大人しくしていないお国柄、芸人も客も一体となって盛り上がるのだ。
日曜-火曜はアドミッションフリーのショーもある。突然大物スターのショーがあったりするのでマメにチェックしよう。
 まず入り口では、直径50センチはあるだろうアフロのカツラをかぶったファンキーなお兄さんがお出迎え。顔が隠れそうなほど大きな口ひげを揺らし、腰をふりふりしながら中へ案内してくれる。お客のほうも“70年代の仮装をして来る”という条件があったので、レストランは「こんなレトロな洋服どこで手に入れたの?」みたいな衣装に身を包んだ人たちでいっぱい。幾何学模様のミニワンピで元気な足を披露しているお姉さんに、かなりいい感じに広がったパンタロンと、胸元のはだけた真っ赤なサテンシャツがまぶしいお兄さん。こんな光景を見ながら、ビュッフェを楽しみ、お酒を口に運べば、ショーがはじまるまでの余興もいらないほどだ。
 こうして客席もそろそろいっぱいになった頃、ステージに現れたのはセクシーな衣装のおねえさん。マイクロミニからのぞく美脚をくねくねと披露しながら前説をする彼女の後を、黒のビキニで登場したお姉さんの挑発的なダンスが続く。(注:普通の女優さんたちです)。はじまって10分弱、ここですでにあちこちで口笛が鳴り、客席は大いに盛り上がってきている。

 やがて登場したのが、半分ずれ落ちかけたカツラをなでなでしながら大またで歩く、えらく体格のいい男…女の子。どうやら人気のコメディアンらしく、彼(彼女)が登場するなり歓声はさきほどの倍以上に高まり、やじ混じりに大きな笑い声が巻き起こる。きょとんとした上目遣いがかわいく、昔のアイドル風なブリブリの白いワンピを着て愛敬を振りまく彼女。はじめはしおらしく照れながらダンスを踊っていたのだが、やおらその豊かな胸に手をつっこんだと思うと、中から2つのオレンジを取り出しベロベロ舐めまわしたあと、イキナリ客席に放り投げた!これには客席も大喜び。思わず受け取ってしまったお客から、悲鳴とも喜びともつかない声があがる。
 アメリカ人はしらふでもノリのいい人々だが、こういう場面でお酒が入るとその反応は大変なもの。サービス精神のある男性客が、キタナイものでもさわるようにオレンジを返しに来たのに客席は大ウケ。パフォーマーにツッコミを入れて笑いを奪ってしまうお客だって少なくない。爆笑の一曲が終わると急に上目遣いをやめた彼女。不敵な笑みを浮かべながらドレスを脱いでいき、男の顔に戻っていく。さらに舞台の両端から上半身裸の男性2人加わり、ストリップさながらのセクシーダンスがはじまった。

 2時間強続いたこのショー、その後も大まじめな顔なのにカン高い声でソウルブルースを熱唱するコメディアンや、スタンドアップ(一人でステージに立ち、漫談をすること)でブラックジョークを連発するパフォーマーなどなど盛りだくさん。ラストはもう無礼講で観客もステージに上がり、ダンスにカラオケに大盛況の夜となった。

 日本ではまだあまり馴染みのないコメディークラブだが、ユニークな刺激を求める大人たちにとっては最高の遊びのスポットだ。上のショーは、ほとんどのお客が俳優と馴染みだったので特殊な盛り上がり方だったが、クラブによってはお抱えのアーティストから芸風も様々で、モノマネやコントを楽しめるところもたくさんある。
 ちなみにハリウッドで最も有名なのは、サンセット・ストリップにある“コメディーストア”(The Comedy Store)。ジム・キャリー、マイケル・キートンはここでデビューのきっかけをつかんだ。ウーピー・ゴールドバーグ、ロビン・ウィリアムズ、エディー・マーフィーなどもスタンドアップパフォーマーとして舞台に立ったことがある名門クラブだ。料金もアドミッションが$10前後から、これで未来のビッグスターに出会えるなら極めてリーズナブル。観光のついでに是非立ち寄って欲しいスポットだ。
ジム・キャリー、マイケル・キートンなど何人ものスターを生み出した、コメディーストア。
追分 (Oiwake Karaoke Restaurant)
122 Japanese Village Plaza Los Angeles, CA 90012
(213) 628-2678
コメディーストア
(The Comedy Store)

8433 Sunset Blvd. Los Angeles, CA 90069
(323) 656-6225
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