TEXT BY 尾崎佳加

 ビバリーヒルズ インターナショナル フィルム フェスティバル 2005

イラク戦争開戦以来、インディペンデント(独立)系の映画作品は、戦争や政治をテーマにしたものが急増した。暴力を目の当たりにしたアーティストたちが平和と真実を追い求めて作りあげた、彼らの熱い思いがこもったこれらの作品は、数多くの映画祭に多く出展され、人々の心を打っている。
今月13日から5日間「Beverly Hills Film Festival (ビバリーヒルズ フィルム フェスティバル)」に出展された作品群も例外ではない。2005年度、BHFFの最高賞とされるゴールデンパーム賞を受賞した『The Aryan Couple (アリアン カップル)』は戦争の矛盾を描く代表的作品だ。第二次世界大戦のさなか、ハンガリーで会社を経営していたドイツ系ユダヤ人が、家族の安全と引き換えに、ナチスに事業を受け渡すことを強要される悲劇を描いている。今も深い傷跡を残すナチスの歴史的過ちは映画のテーマとして衰える事がなく、この作品にもBHFF最高賞に加えて監督賞、プロデューサー賞も与えられた。
BHFFの告知フライヤー。
ドキュメンタリー部門で最高賞を受賞した『Kordavision (コルダヴィジョン)』はキューバの写真家アルベルト・コルダの一生を描いた作品。コルダが追った50、60年代キューバの魂と革命を捉えた写真で綴る、こちらも歴史色の濃い作品だ。もちろん作品中には、コルダを一躍有名にした革命家チェ・ゲバラのポートレート「ゲリラヒーロー」の撮影時のエピソードも織り込まれている。ゲバラは知らなくてもこの写真は知っている、という人は多いだろう。ちなみにこの写真は、世界で最も多く印刷された写真だそうだ。
アルベルト・コルダによるチェ・ゲバラのポートレート。
また、同ドキュメンタリー部門で接戦の末に惜敗した『The Oil Factor: Behind the War on Terror (オイル ファクター)』はイラク戦争を強く批判した作品。“テロとの戦い”を名目に、中東との石油戦争を繰り広げるアメリカの真意を探り出す政治的問題作だ。ベトナム戦争時のべトコン拷問問題のキーパーソンで、ニクソン大統領のブラックリストに載ったというスタンリー・シェインバームの一生に迫るドキュメンタリー『Citizen Stan (シティズン スタン)』も話題を集めた作品の一つ。
そして、今やハリウッドでもこれなくしては成り立たないほど重要な位置を占めるアニメーション部門では、ポーランドの異才トメック・バジンスキー監督の『Fallen Art (フォールン アート)』が受賞した。これも軍隊を舞台にしたドラマだ。同監督は『The Cathedral (カテドラル)』で第75年度短編アニメ賞にノミネート入りした実力派。これからの活躍が期待される注目の新人である。
それにしても、政治的なテーマ含んだ作品がこれだけ多く出品されたという事実が、世界の抱える問題の大きさを示している。
メジャー映画とは異なり、規制に捕らわれることのない独立系映画。表現の自由が許された世界だけに存在する、鋭い見識がいちばんの魅力だ。これらの作品の一部はオンラインで購入、鑑賞できる。自分の意思と深く共鳴する作品に出会いたいなら、だんぜんインディペンデント系をお勧めする。
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