TEXT BY 尾崎佳加

 ファッション界の伝統を脅かすセレブリティーブランド

スーパーモデルに成り代わり、アパレル界をリードしだしたハリウッドセレブたち。連載259のトレンドハリウッドでも触れた空前のセレブブーム。その勢いは止まることを知らないようだ。
先日、スーパーモデル、ジゼル・ブンチェンと契約を結んでいたカリフォルニアのニットメーカー「St. John(セント ジョン)」は、アンジェリーナ・ジョリーをニューフェイスに迎え入れた。エリザベス・ハーレーが長年顔を務めたコスメティックブランド「Estee Lauder(エスティー ローダー)」も、新キャンペーン広告に女優のグウィネス・パルトロウを起用。他にもペネロペ・クルス(「Sean by Sean John(ショーン バイ ショーン ジョン)」)、ブリタニー・マーフィー(「Jordache(ジョーダッシュ)」)、デミ・ムーア(「Versace(ベルサーチ)」)などなど、セレブリティーの広告契約を報じるニュースが後を絶たない。プロのモデルを差し置いて広告塔を飾るようになったセレブたちは、モデル業のみならずさらなるファッション界での飛躍に乗り出した。
食べられるコスメ「Desert Beauty(デザート ビューティー)」をプロデュースしているジェシカ・シンプソンは、同商品のヒットに自信を得て新しくファッションレーベルを立ち上げた。カジュアルウェアの「JS by Jessica Simpson(ジェイエス バイ ジェシカ シンプソン)」に、少しラグジャリーテイストを加えた「Princy(プリンシー)」。2つのクロージングラインを同時に発表するのだからよほどの自信が窺える。歌姫ビヨンセのレーベル「House of Dereon(ハウス オブ ディロン)」も本格的に始動した。こちらはビヨンセ自身がコンサートツアーでコレクションを着ることで大々的なプロモーションを行い、早くもヒットの兆しを見せている。
セレブリティーのブランドと聞くとどうしてもサイドビジネスのイメージが拭えないが、中には単にブランドを立ち上げるだけでなく、本格的にランウェイデビューを果たす例もある。昨年冬にNYコレクションで新作を披露したジェニファー・ロペスの「JLo(ジェイロー)」はこれまでの顧客層の拡大に成功。この夏、同コレクションに初参加したグウェン・ステファニの「L.A.M.B.(ラム)」は、同時進行中のブランド「原宿ラバーズ」とともに斬新なデザインがファッション界の注目を集めた。セレブリティーのアパレル業界進出は、ミラノ、パリの伝統的なメゾンが築いた不動の地位を揺るがす行為だと、ファッション戦争のヘッドラインで報じるメディアも少なくない。
飛ぶ鳥を落とす勢いの女性セレブのファッション界での活躍に、男性セレブもただ黙ってはいない。10月、ポップ歌手のジャスティン・ティンバーレイクは友人たちとカジュアルウェアブランド「William Rast(ウィリアム ラスト)」を発表した。インタビューでティンバーレイクは、今までアパレル事業には興味がなかったが、友人の熱い説得に、ストリートとラグジャリーを掛け合わせたテイストが出せるならと立ち上げを決意。これまで、目立った男性セレブのファッションレーベルというと、ショーン”ディディ”コムズの「Sean John(ショーン ジョン)」、ジェイ・Zの「Rocawear(ロカウェア)」ラッセル・シモンズの「Phat Farm(ファット ファーム)」などストリートブランドが圧倒的だったから、ティンバーレイクの試みはショービズ界、ファッション界双方に新しいスタイル旋風を巻き起こすかもしれない。
個人的に、セレブリティーが伝統的クチュールの首位を奪うことはないと思う。しかし、今後デザイナーが彼らの存在を無視して活動することは非常に難しくなるだろう。ショービズ界に融合するブランドと戦うブランド。どちらが多く生き残るかが見ものだ。
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