TEXT BY 尾崎佳加

 シンガーに転身か?マルチにセンスを磨くスターたち

ハリウッドスターたるもの、演技力だけで満足していてはいけない。ミュージカル映画やダンスを盛り込んだアーティスティックな作品が増える今、彼らに求められるのは歌って踊れるマルチなセンス。どんな配役もこなせるよう日々努力する彼らだが、中にはそのまま転職を薦めたくなるほど多方面に才能を発揮する俳優がいる。
伝説のシンガー、レイ・チャールズの熱演が記憶に新しいジェイミー・フォックスは現在、本職の役者稼業よりも音楽活動がさかんだ。オスカー俳優に輝いた後のグラミー賞ノミネーションは喜ばしい快挙だったが、その後何週にもわたりヒットチャートのトップを飾るとは誰も予想しなかったことだろう。
ブラックミュージックといえばヒップホップのイメージが先行する今、フォックスはR&Bの人気を復活させたいと意気込みを語る。ソングライターとして作曲をこなす一面も見せ、今月発表した新アルバムのプロモーションもすこぶる好調。もうしばらくは映画界での活躍よりもこちらの動きが目立つかもしれない。
音楽にどっぷりはまってしまっている俳優といえば、ジャック・ブラックもそんな一人だ。『スクール・オブ・ロック』でアブナイ熱血音楽教師を演じたブラックは、プライベートでも大のつくロック好き。友人カイル・ガスと異色のロックバンド、テネシャスDを結成し、レコーディングやツアー巡りに毎日勤んでいる。
ロック素人な私から見ても、テネシャスDはとにかく型破りである。意外とエエ声なブラックの歌声に癒されるナンバーもあれば、ビート、ベース、おたけびと、ロックの3大要素盛りだくさんの熱いナンバーもあり。そこにブラックのユニークな歌唱法とパフォーマンスが加わり、まるで寸劇を見ているようなエンターテイメント性のあるライブを披露してくれるのだ。歌の内容も「彼女が喜ぶHをしよう」というようなカゲキで変り種のものばかり。パールジャム他、ロックの権威たちが手放しに彼らを絶賛するのもうなずける。
我が道を行く度の話をするうちに、ある番組でキョウレツな個性を発揮していたセレブリティーを一人思い出した。以前、『But Can They Sing?(バット・キャン・ゼイ・シング)』(連載285)というオンチシンガーを育成する番組を紹介したが、この中に人何倍もインパクトのあるパフォーマンスを見せたセレブリティーがいた。
中国出身の女優として活躍中のバイ・リンは、奇抜なスタイルでインタビューに応じる姿などがファッション界でも何かと話題な人。一度見ただけでも忘れ難い印象の強さだが、この番組での彼女の暴れ具合を見るとやっぱり、と納得がいく。番組の趣旨上、リンがオンチであることは言うまでもないが、そんな事実はものともせず、恍惚と自分に酔いしれて歌い上げる姿には威厳さえ感じる。秋葉のメイドのようなコスチュームを着たり、舞台を駆け巡りながら服をストリップしたり、暴走し出すと止まらないリン。才能についてはノーコメントだが、女優業をやめてもパフォーマーの道を十分に生きていける逞しい女性だと思わされた。芸は身を助けるとは、よく言ったものである。
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