TEXT BY 尾崎佳加

 第78回アカデミー賞授賞式 苦い受賞と思いがけないハプニング

米国時間3月5日、栄えある第78回アカデミー賞の授賞作品・受賞者が発表された。結果は最多8部門で候補に上がっていた「ブロークバック・マウンテン」が3部門(監督賞、脚色賞、音楽賞)を制覇。多くのメディアの予想を裏切り、オスカーが最優秀作品に選んだのは「クラッシュ」だった。
授賞式直前、誰もが「ブロークバック~」の受賞を疑わなかった中、一部のアカデミー関係者や批評家の間で有力候補を「クラッシュ」とみる動きが急浮上した。だが、当の監督ポール・ハギスはこの噂に耳を貸さず、受賞発表の瞬間驚きで目を丸くすることになる。受賞式後の記者会見ですら、オスカーを手にしながらもまだ信じられないと嬉しいハプニングに興奮冷めやらぬ様子だった。

一方、監督賞を受賞したアン・リーを囲んだ記者会見では、リーの監督賞受賞を手放しに称えず、話題はもっぱら「クラッシュ」のどんでん返し受賞に。手にするはずの勝利を奪われた感想を問われたリーは、自分の作品を誇りに思っていると述べた上、穏やかな様子で「クラッシュ」の受賞を素直に祝うコメントを残した。
作品賞を受賞した「クラッシュ」のポール・ハギス監督(右)とプロデューサーのキャシー・シュルマン(左)。
(C)Academy of Motion Picture Arts and Sciences
だが、ラリー・マクマートリーとダイアナ・オサナは脚色賞の受賞会見で落胆を隠さなかった。マクマートリーは保守的な審査が影響しているという見解を披露し「アメリカはカウボーイがゲイになることを好まなかった」と述べた。

マクマートリーの言葉はあながち皮肉ではない。この作品が社会に与えた影響はそれほど多大だった。劇場や街にはテンガロンハットにウエスタンブーツできめたカウボーイ風のゲイカップルが現れ、主人公が着た衣装がゲイの男性に1200万円で落札され、”ブロークバック”といえばゲイの代名詞となるほどジョークに多用され、米国の流行語大賞にも選ばれた。これほど人々の心を掴んだ作品が受けるべき賞賛を得られなかったと感じたのはマクマートリー一人ではないはずだ。
「ブロークバック・マウンテン」で監督賞を受賞したアン・リー。
(C)Academy of Motion Picture Arts and Sciences
とはいえ、「クラッシュ」の受賞はまぐれ、という声は皆無である。誰もがそこにあると知っていながら見て見ぬふりをする人種の壁に真っ向から”衝突”した同作の勇敢な挑戦は正当に評価されたのだ。

今年の各映画賞は大作にありがちなめくらましでなく、優れたストーリーの作品群がフェアに勝負した年となった。勝敗はひとまずおいて、最良の戦いの余韻に浸りたい。

★本年度アカデミー賞受賞作品・受賞者★

作品賞 「クラッシュ」
監督賞 アン・リー(「ブロークバック・マウンテン」)
主演男優賞 フィリップ・シーモア・ホフマン(「カポーティ」)
助演男優賞 ジョージ・クルーニー(「シリアナ」)
主演女優賞 リース・ウィザースプーン(「ウォーク・ザ・ライン」)
助演女優賞 レイチェル・ワイズ(「ナイロビの蜂」
脚本賞 「クラッシュ」
脚色賞 「ブロークバック・マウンテン」
ドキュメンタリー賞 「皇帝ペンギン」
オリジナル音楽賞 「ブロークバック・マウンテン」


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