TEXT BY 中条佳子(N.Y.在住)

 NYリンカーンセンターのウォルターリードシアターでは6月14日から29日まで、HRW映画祭が開催されている。すべての人々が熱に浮かされたように人権問題を声高らかに提唱する時代は終わったものの、2000年を迎えた現在でも世界各地で政治的自由や人権の擁護を求める声はやまない。今回この映画祭では米国はもとよりイスラエル、イラン、レバノン、ブラジル等12カ国から30本のフィルムが集められた。映画上映の合間にはプロデューサー、監督、出演者らとディスカッションが行なわれたり、隣接するギャラリーではチベットをテーマにしたドキュメンタリー写真の展示会が開かれたり、映画や写真が単なるエンタテイメントやアートにとどまらず、力強いツールとなって問題を提起する役割を果たしている。政治と戦争をテーマにしたものや地味で重苦しい内容の映画が多いとはいえ、ほぼ満席状態やSold Outの上映作もあり、NY2000年の夏に静かながら力強いムーブメントを巻き起こしている。30本のすべてを紹介出来ないのが残念だが、アメリカの問題に密着したテーマの4本の映画を取り上げてみよう。

 900Women
【Lalen Khadivi監督, US, 2000, 73分 16mm, doc】
 70年に設立されたルイジアナの南に位置する、重罪の判決を受けて服役する女性囚人のための刑務所が舞台。900人というキャパシティをしばしば越えてしまうこともあるこの刑務所内の囚人の内75%は母親であり、4分の1は15年以上服役するという。偽りの平安を醸し出す刑務所の中で高校生、孫を持つ女性、妊娠した女性、元ヘロイン中毒者、女看守、たった1人の死刑囚という6人の登場人物に焦点をあて、彼女達のフラストレーションと希望を描き上げた。プロデューサーは「The Farm」でアカデミー賞にノミネートされたドキュメンタリー作家Jonathan Stack

 Homeland
【Jilann Spitsmiller & Hank Rogers監督,US, 1999 60分,16mm, doc】
 サウスダコタの居留地区で生活するネイティブアメリカン4家族を3年に渡って取材した作品。85%の失業率、住居問題、教育の欠如に起因するドラッグやアルコール中毒の問題などに立ち向かいながら、少しでも良い生活を願う現代のネイティブアメリカンをリリカルに描いている。ドキュメンタリーとはいえ洗練されたカメラワークで、心に残る美しいシーンが多い。西部劇に登場するインディアンが悪役だった時代はとうの昔に終わったが、スピリチュアルで伝説的な部分のみが強調されている現在、彼等の等身大の姿を垣間見ることが出来るこの作品は貴重である。

 La Boda
【Hannah Weyer監督, US,2000,53分 ,Video doc】
 アメリカ移住の22歳のメキシコ人女性が、葡萄農園で出会った同じくメキシコ出身の男性と結婚するまでを描いたビデオ作品。両親を手伝うために学校に通えなかったり、お金の余裕がなく満足に物が買えなかったりする移住生活者の問題を捉えていたりするのだが、登場人物の前向きに生きる姿とラテン特有の明るいユーモアのセンスに、会場に笑いが起こる場面も多々あった。元々はフィクション出身のWeyer監督が、主演のエリザベスと撮影を通して築き上げた親密な女性同士の友人関係が、この作品を温かいものにしている。同監督は、その後のエリザベスの結婚生活と妹のハイスクール生活のドキュメンタリー作品を制作中。監督自身が発見したように、移住生活の深い家族の絆の中に物質的に恵まれてはいないが、素朴だが何物にも変えられない幸福を見出すことが出来るだろう。

 Public Enemy
【Jens Meurer監督,France/Germany,1999,88分, 35mm,doc】
 60年代、アフリカンアメリカン市民権運動で大きな役割を果たした活動グループ「ブラックパンサー」。元グループの4人のメンバーが登場し、その後の経緯と変革を語る。アフリカンアメリカンらのセルフイメージ及び社会的イメージが、かつてのユニークな政治社会的改革によって如何なる変化を遂げたを問う興味深い作品。登場人物はその後ミュージシャンとしての地位を築き上げたシックのナイル ロジャース、元トップクラスの女性リーダーで現在法学部教授として活躍するキャサリーン クリーバーら。この作品はSold Outとなっており、またフェスティバルのクロージングナイトを飾っている。

 折りしも6月最後の週末はゲイプライドで、ウェストビレッジをはじめ様々な場所でゲイの権利を主張するパレードやパーティが繰り広げられた。ゲイの人権運動がエンタテイメント性のみ肥大し、今では単なるお祭り騒ぎとなってしまったと嘆く向きもある。しかしこの運動によって彼らは過去にゲイの権利を獲得してきている。映画の持つエンタテイメント性や芸術性をかりて、人々に人権を訴えることが出来るHRW映画祭は多くの意義を持っている。残念ながら日本からの作品は一つもない。これは日本に治的社会的問題がまったくないということにはならないはずである。
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