TEXT BY 中条佳子(N.Y.在住)

 NYハーレムの住民たちが、かねてより待ち望んでいたマジック ジョンソン シアター(MJT)が、ついに6月30日にオープンした。セントラルハーレムの中心地125丁目とフレドリック ダグラス ブルバードに面する一ブロックの広大な敷地に建設された「ハーレムUSA」は、ディズニーストアやHMV、オールドネイビーといった店舗が入った、ハーレム再開発の象徴といわれる6階建てのコンプレックスビル。その大部分を占めるMJTは、通常よりほぼ2倍の大きさのスクリーンと最新のデジタルサウンド、そしてゆったりした座り心地に作られたリクライニングシートを完備した、全9館から成る巨大なシネマコンプレックスだ。95年ロスアンジェルスにオープンして以来アトランタ、ヒューストン、クリーブランドに続く5つ目のMJTとなっている。一時は夢物語にすぎないのかも、といわれていたくらい時間がかかったハーレムMJTのオープンに、地元の人たちは盛り上がり、建物付近は映画を観に来た人と映画館を見に来た人たちがごった返していた。

 映画館のオープンがなぜこれほど人々の話題になるのかというと、実はアップタウンではハーレム西の地区ワシントンハイツにかろうじて小さい映画館が2つあるだけで、セントラルハーレムには今までまともな映画館がなかったからだ。毎週3~4本の新作が封切られる映画大国のこの国で、アップタウンの人口に対する映画館の割合は以上に低く、人々が新作を観るのにはアッパーウェストやミッドタウン、あるいはブロンクスまで行かなけばならなかった。MJTは地元待望の映画館であったわけだ。ただ地域の物価に較べると$9.50という映画料金は高いという声もある。しかし広大な空間とゴージャスなインテリア、最新の設備を考えると値段的には妥当だし、スタッフの対応もNYにあるまじき丁重さでかなり驚かされてしまった。上映が終わったあとに出口でキャンディをサービス、スタッフ全員からまたお出で下さいといちいち挨拶されたときには、映画の余韻に浸りたい時はほっといてくれよと思ってしまいそうだけど。ちなみに上映映画はこの日全米封切りの「パーフェクトストーム」「Patriot」「ロッキーとブルウィンクル」etc.もちろん一番の人気は「Shaft」で2館での上映となっている。ハーレムのおばちゃんたちがサミュエルを観て大はしゃぎしたり野次を飛ばしたりする様子が映画より楽しかった。


 
 当日、朝10時からのオープニングイベントでは、地元の子供達のブラスバンドやハーレムボーイズクワイアによるパフォーマンス、関係者のスピーチが行われた。今やビジネスマンとなった伝説的NBAプレイヤー、アーヴィング“マジック”ジョンソンも最後に登場。成功したアフリカンアメリカン コミュニティ出身者が常にいう「Giving Back to The Community」を彼もスピーチで強調した。つまり成功者は手に入れた物を自分だけの物とせず、コミュニティに還元し援助をするということだ。彼の場合は、映画というエンタテイメントとサービスを不十分だった地域に供給、また映画館設立というビジネス展開によって仕事のチャンスを人々に与え、それによって地域社会の経済を発達させるということである。関係者のひとりは「MJTがハーレムのポジティブな印象となるし、また1年後には経済が上昇し地域に貢献できることだろう。」と語る。現在急成長を遂げる経済状況が、人々の思惑どおりにMJTのオープンによって加速度を増し、ハーレムは今後ますます姿を変えていくことだろう。
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