TEXT BY 中条佳子(N.Y.在住)

 NYの映画に関するNY的話題をふたつ。インディーズ映画配給会社の記念上映シリーズ、ニューインディーズの宣伝法についてです。

 マイルストーンフィルムandビデオ10周年記念
 10年前デニス・ドロスとエイミイ・へラーはシンプルでエレガントなアイディアによって映画配給会社をスタートさせた。そのアイディアとは、映画は新作旧作問わず、サイレントもトーキーも外国映画もそれぞれが素朴でオリジナルの状態で観られる価値があり、またいつでも本当に良い映画には市場があるということ。事業に対する彼らの正直さと情熱によって、このインディペンデントディストリビューターはアメリカの映画界で最も尊重される地位を築き上げた。

 今回リンカーンセンターで行われるこのトリビュートでは、全15作品が上映される。一番古い映画は19年のサイレントドキュメンタリー『SOUTH:Ernest Shackleton and the Endurance Expedition』。氷と雪の嵐と戦う冒険家たちの貴重な映像を、生のオーケストラ演奏とともに鑑賞するスペシャルイベントも行われた。

 米、英、メキシコ、キュ-バ、韓国の作品がある中、邦画では是枝裕和監督の95年作品『幻の光』、こちらでも人気が定着している北野武監督97年作品『HANA-BI』、ガウディ芸術のドキュメンタリー勅使河原宏監督85年作品『アントニオ・ガウディ』が上映される。このようなインディーズ配給会社の努力により日本の作品がアメリカに紹介されているのだと思うと、感慨深いものがある。地味ながらも映画が持つ本来の魅力を再認識出来そうだ。

 監督のパフォーマンスによる映画宣伝
 8月25日からアンジェリカフィルムセンターで上映されるトロント及びミラノの映画祭受賞作『Smiling Fish and Goat on Fire』が、監督自らのストリートパフォーマンスにより宣伝されている。26歳のケビン・ジョーダン監督は制作費4万ドルの低予算では宣伝費用のバジェットが出せないことに気付き、自ら市場開拓に出る戦略に。しかしそれは映画がオープンされるまでの毎週末、映画館の前でサウンドトラックの歌をパフォーマンスしながらチケットを買う列の人々にチラシ配りをするという地道な宣伝法。

「みんな最初は不思議そうに見てるよ。でも映画のポスターを見たあとで理解してくれる。名刺を差し出してヘルプを申し出てくれる人もいるしね。彼らはこの草の根運動を尊重してくれてるんだ。」映画は、孤児の兄弟が愛や家族についての意味を探し出すというロマンチックなストーリー。「カリフォルニアを舞台にしているけど、もっと東海岸的ストーリーでNYタイプの映画」とNY大学出身の監督はいっている。

 
NY大学時代に制作した作品がマーティン・スコセッシの目にとまったという経緯もあり、映画のクレジットにスコセッシの名前もあって、それもひとつの宣伝材料だ。それにしてもギター片手に映画館の前でパフォーマンスするジョーダン監督、果たして本当に宣伝だけが目的なのか。「トゥルー・ラブをさがしてるんだよ。もしもそういう彼女がいるならアンジェリカシアターの前に現れて欲しいな。」映画の主人公がロマンスをみつけたように、彼もロマンスをみつけられるのかな。


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