TEXT BY 中条佳子(N.Y.在住)

 前回に引き続き、9月22日から10月9日まで18日間にわたって開催中のNYフィルムフェスティバルレポートをお届けします。

 2000年NYフィルムフェスティバルのスペシャルイベント「ボディ&ソウル」が、ジャズ・アット・リンカーン・センターとザ・フィルム・ソサエティ・オブ・リンカーン・センターの共同プロデュースにより9月24日エイブリー・フィッシャー・ホールで行われた。このイベントは25年制作の無声映画『ボディ&ソウル』の上映に伴い、ウィントン・マルサリスとリンカーン・センター・ジャズ・オーケストラが演奏するというもの。古き良き時代のサイレントムービーではピアノ伴奏がつきものだったが、トロンボーン奏者のワイクリフ・ゴードンがゴスペルとブルーズのテイストが散りばめられたスコアをビッグバンド編成のために作曲。ジャズの貴公子ウィントン・マルサリス率いるオーケストラが演奏や効果音で会場を沸かし、映画ファンとジャズファンどちらもが楽しめるスペシャルイベントとなった。

 映画史上初のアフリカンアメリカンのフィルムメーカー、オスカー・ミショー監督・製作による『ボディ&ソウル』は、スタンダードなメロドラマ風のストーリー展開の中にユーモアのセンスとディープな人種問題を取り入れた作品。伝説的アフリカンアメリカン俳優ポール・ロブソンが、牧師になりすました脱獄囚と発明家の双子の兄弟を主演し、ひとりの白人女性イザベルとその母をめぐって物語は悲劇的に進行する。でも悪い出来事はすべて夢の中のことでした、という落ちで結局ラストはハッピーエンド。シドニー・ポワチエやスパイク・リー以前に、アフリカンアメリカンで主役を演じる注目すべき俳優や監督がいたのか、と思った人は多いだろう。ちなみにオスカー・ミショーは1919年から48年にかけて40本のインディペンデント映画を制作している。

 ところで今年の日本からの出品作は全部で3作。その中の2作はカンヌ映画祭にも出品された青山真治監督『EUREKA ユリイカ』('00)と大島渚監督『御法度』('99)、そしてもう1作は北野武監督『BROTHER』('00)である。北野監督と大島監督に関してはNYでも人気が高く、前売りチケットもSold Outとなっている。しかし最も注目されるのはカンヌ国際批評家連盟賞を受賞した青山監督作品。バスジャックをテーマにした3時間37分の超長編作品をニューヨーカーがどう捉えるか10月7日の上映に期待したい。

 NYフィルムフェスティバルのディレクター、リチャード・ペニャ氏によると、今回の出品作は演劇に影響せれたものや演劇作品をベースにしたものが多いという。イム・グオンティク監督『CHUNHYANG』('00)は韓国の伝統的音楽劇の影響を受けているし、アトム・エゴヤン監督『KRAPP'S LAST TAPE』('00/TV)とニール・ジョーダン監督『NOT I』('00)は共にベケットの芝居をベースにしたもの。そのほかにも南アフリカを舞台にした『BOESMAN&LENA』('00)も演劇の映画化作品である。迫真の演技はオスカーものだと絶賛されているアンジェラ・バセットと『リーサル・ウェポン』シリーズでおなじみのダニー・グローバーが主演。上映後にプロデューサーと共にグローバーが登場しQ&Aの時間が設けられた。観客の質問に答えて、南アの現状や映画編集が終了するわずか直前に亡くなったジョン・ベリー監督の思い出などを熱心に語るグローバーは、ハリウッドスターというよりアクティビストに近い印象だった。


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