TEXT BY 中条佳子(N.Y.在住)

 70年代初頭にNY音楽シーンで生まれたヒップホップは、アートやダンス、映画等にもクロスカルチュアル的に浸透し、今やビリオンダラービジネスとして拡大成長を遂げている。ヒップホップシーンから生まれたスター、LLクールJ、ウィル・スミスらはTVドラマシリーズで絶大な人気を得てハリウッドに進出。LLクールJは現在全米BOXオフィス2週連続第1位のヒット作『チャーリーズ・エンジェル』('00)に、ウィル・スミスはオープニング第3位にランクされた『バガー・ヴァンスの伝説』('00)にそれぞれ出演し、俳優としての地位を着実なものとしている。また独自の世界を築き、映画『ジュース』('92)『ギャングシティ』('97)等で俳優としても将来を嘱望されながら25歳で悲劇的な死を遂げた2PACシャクールは、カルチュアルアイコンとしてポップカルチャーにその名を刻みHip-Hopジェネレーションの伝説となった。最近ではジェイ-Z、DMX、メソッドマンらのラップ・コンサート・ツアーを追った作品『Backstage』('00)がメジャー映画館で公開されヒット。もはや映画はHip-Hop抜きでは語れない状況だ。

 さて、このように映画とも関わりを持つHip-Hopが、いまニューヨークで大々的にアートとしての市民権を得ている。というのはHip-Hopをテーマにしたマルチメディア・エキジビションがブルックリン・ミュージアムで開催されているのだ。音楽シーンだけにとどまらず、あらゆるカルチャーシーンを凌駕しようとする勢いのHip-Hopの魅力を探ろうと、アフリカンアメリカンのみならず通常はHip-Hopには縁のない人々まで美術館に足を運んでいる。NYブロンクスで生まれ、過去25年の間に最もアメリカのカルチャーに影響を与えたとされるHip-Hopのルーツと軌跡を辿るエキシビションタイトルは「Hip-Hopネイション:ROOTS,RHYMES,&RAGE」。400アイテム以上の展示品は70'Sから現在までのファッション、ビデオ、アート作品などで構成されている。

 まず70年代から80年代初期にかけて台頭したHip-Hopのパイオニア的存在アフリカバンバータの奇抜な衣装やオーディオサウンドシステから始まり、80年代中期から90年代にかけてのゴールデンエイジといわれる時期に活躍したパブリックエナミーのシンボリックなアクセサリー(ゴールドのチェーンや時計)、Run-DMCの靴紐のないアディダスなどが展示されている。注目されるのは今は亡き2PACとThe Notorious B.I.Gのパーソナルアイテム。特に2PAC直筆の、彼自身が夭折を予感している内容のメモは見ていると切ない。

 人種、性別、階級、言葉、国境をすべて越えてグローバルに広がっていくHip-Hopは、ユースカルチャーだけの中にとどまらない。現在問題となっているNYの警察暴行事件に対し、ブルックリン在住のラッパーMos Defがリードする社会コミュニティ運動も担っている。お決まりのテーマであるマネー&パワーの短絡さや、ギャングスタ・ラップのダークサイドが取り沙汰されがちのHip-Hopだが、そのポジティブな魅力を知る絶好のチャンスだ。エキジビションの開催は12月31日まで。


Brooklyn Museum of Art
200 Eastern Parkway
Brooklyn, NY 11238
Tel:718-638-5000
料金:一般$4/学生$2/シニア$2
時間:水-金10:00-17:00/土日11:00-18:00


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