TEXT BY 中条佳子(N.Y.在住)

 鉄鋼王アンドリュー・カーネギーによって1891年設立された音楽の殿堂カーネギーホール。チャイコフスキー指揮によるオープニングナイト以来100年以上の輝かしい歴史の中で、数々の名演奏がこの舞台の上で繰り広げられた。50年代には経営不振で行き詰まりをみせたものの、バイオリニストとしても名高いアイザック・スターン会長の手腕により立ち直り、1964年には米国の歴史的ランドマークに指定されている。今回はニューヨークに在するコンサートホールの中で、最も由緒あるカーネギーホールにまつわる話題をお届けしたい。

 映画の舞台としてのカーネギーホール

 このコンサートホールを舞台にした映画はいくつかあるが、古いところではクラリネット・ジャズの第一人者ベニー・グッドマンの伝記映画『ベニー・グッドマン物語』('55/監督:ヴァレンタイン・デービス)がある。映画のクライマックスはホールの歴史上でも注目すべき、'38年の凱旋コンサート。このコンサートが、スウィング・ジャズが一般に受け入れられるターニングポイントとなったといわれていて、映画の中でも感動的なラストシーンの舞台となった。

 また『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』('99年/監督:ヴィム・ヴェンダース)は、映し出される瞬間のすべてが素晴らしいキューバ音楽ドキュメンタリー作品だ。97年にリリースされたライ・クーダ-のプロデュースによる同タイトルアルバムは、同年グラミー賞を受賞。その音楽に魅せられたヴェンダース監督によって98年にハバナで撮影が開始された。そしてこの映画のクライマックスとなるのが、やはりミュージシャン達が夢にまで見たカーネギーホールでのコンサートだ。このシーンの臨場感は圧巻。コンサートホールのクラシックな建築様式と年季の入ったミュージシャンたち、そして哀愁と生命力に溢れる音楽が見事にマッチして、古いものの中に存在する永遠の価値を感じ取る事が出来る。


 最近話題となったのはメリル・ストリープ主演の『ミュージック・オブ・ハート』('99年/監督:ウェス・クレイヴン)。イーストハーレムの学校でバイオリンを教える一人の情熱的な教師と、学生たちが織り成す実話をベースにした感動作品だ。打ち切られようとする授業を存続させるために企画した救済コンサートが行われるのが、演奏者たちの憧れと夢であるカーネギーホール。このコンサートによって、事実この学校の授業は現在も続けられている。人種を超えて、音楽が持つポジティブなパワーを誰も経験出来るのだと力強く感じさせられる。ストリープはこの作品で、昨年のアカデミー及びゴールデングローブ主演女優賞にノミネートされた。


●歴史あるカーネギーホール外観と内観。ここで数々のドラマが生まれたのだ


 カーネギーホール初のHIP‐HOPコンサート

 クラシック音楽のホールとしてスタートし、長年の歴史の中ではジャズ、ロック系のミュージシャンに門戸を開いてきたカーネギーホール。95年にはスティング主催のチャリティーコンサート『Aid the Rainforests』が行われたりとロック系アーティストの活動の場として定着しているが、1月19日このコンサートホールで史上初のHIP-HOP系アーティスト、ワイクリフ・ジョン主催のチャリティ・ジョイント・コンサートが行われた。音楽教育機関ワイクリフ・ファンデーションのために行われた今回のベネフィットコンサートの出演は、ワイクリフ・ジョンを筆頭に『チャーリーズ・エンジェル』('00/主演:キャメロン・ディアスほか)の主題歌『Independent Women Part1』がヒット中、そしてブッシュ大統領就任セレモニーにも登場したディスティニー・チャイルド、ホィットニー・ヒューストン、メリーJブライジ、エリック・クラプトンら。このファンデーションは、映画『ミュージック・オブ・ハート』のように、人格情緒形成にかなりの好影響を及ぼす音楽教育を受けるチャンスを、出来るだけ多くの子供たちに与えることを目的としたもの。企画に賛同したアーティストたちがカーネギーホールに集合し、豪華な出演者の顔ぶれが揃った。この他予定外のサプライズゲストとして、スティービー・ワンダーとマーク・アンソニーが登場し会場を沸かせ、カーネギーホールに新たな歴史のページを書き加える夜となった。


『ミュージック・オブ・ハート』
2月23日(金)ビデオ&DVD発売
発売:アスミック、角川書店
販売:アスミック

『ミュージック・オブ・ハート』より
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